夢が醒めなくて
「じゃあゴールデンウィークの谷間。希和子ちゃん、いいよね?」
いつの間にか、日にちを決められていたらしい。

「あ、うん。谷間なら、大丈夫。」
今年は、由未お姉さんが連休後半に帰って来るのを待って、一緒に加賀へ行くことになっている。

……義人氏と2人で行動して気まずくならずに済むとホッとする気持ちと……いつまでこんな状態が続くんだろうかという葛藤に悶々としてると、孝義くんが言った。

「いつまでお前にそんな顔させとくんやろな、あの人。……本気で、俺とつきあわんけ?」
春秋くんの前でも平気でそんなことを言うようになった孝義くんの変化に、今さらながら驚いた。

……それもいいかもね。




ゴールデンウイークのはじめの祝日、孝義(たかよし)くんの案内で、春秋(はるあき)くんと一緒に、孝義くん家(ち)のお寺の系列の大学のキャンパスに足を踏み入れた。

「キャンパスゆーても、ほとんどの学部が別の敷地に移ってるけどな。」
孝義くんはそう言ったけど、広い敷地に古いコロニアル建築の洋館やレンガの建物が点在してて、すごく素敵。

「ほんで?どこにいてはるん?高子(たかいこ)さま~。」
春秋くんはキョロキョロしながら、幽霊を呼んだ。

「このへん。」
そう言って、孝義くんは自分の顔の右側を指差した。

え!?

「うそ!見えん!わからん!どこ!?」
春秋くんは孝義くんの右肩の上の空気をかき混ぜた。

「……やっぱり、わからんか。まあ、俺も見えへんけど。今、高子さま、笑っとるわ。聞こえへん?」
孝義くんにそう聞かれて、春秋くんも私も首を横に振った。

見えないし、聞こえない。
……残念。
まあ、仕方ないか。
誰にでも見えるもんじゃないよね。

気を取り直して、私は孝義くんの右肩の上に向かってお礼を言った。
「はじめまして。希和子です。大切な本をいっぱいお借りして、ありがとうございました。それにお念珠も。大切にします。」
そう言って頭を下げた。

そしたら、何となく心が軽くなった気がした。

「……高子さまが、幸せになれって。」
ぶすっとして孝義くんがそう言った。

「てか、何でそんな顔してんの?自分に都合の悪いとこ、省略してるやろ?」
春秋くんに指摘されて、孝義くんは赤くなった。

「やっぱり!高子さまー。ちゃんと伝わりませんよー。」
「はいはいはいはい。」
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