夢が醒めなくて
「さやかさん?」
なるべく自然にそう聞いた。
「……ああ。ちょっと、ごめん。廊下出てるし。」
義人氏は、そう言って携帯の画面を操作しながら廊下に出た。
廊下からかすかに漏れてくる義人氏の声。
さやかさんと、電話で話してるんだ。
気がついたら、私の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
どうせ2人でいたって何も話せないけどさ、それでも、私にとっては大切な時間だったことを今さらながら思い知らされた。
さやかさん、ひどい。
こんなささやかな時間すら、根こそぎ奪っていくなんて。
淋しいよ。
すごく、淋しい。
最終日は山中温泉だ。
鶴仙渓という緑豊かな川のほとりのお宿では、170平米もあるお部屋に泊まった。
お部屋には源泉かけ流しの露天風呂とミストサウナがついていた。
私たちは、お父さんとお母さんをお部屋に残して観光に出かけた。
恭匡さんと義人氏は地下足袋を借りて渓流釣りに挑戦するらしい。
由未お姉さんと私は、橋の上からこの珍しい光景を見下ろしていた。
妙にはしゃいでる2人がかわいくて……でもやっぱり私の目は義人氏に釘付けで……
「……どう見ても、希和子ちゃんはもうずいぶんと前からお兄ちゃんに恋してると思うんやけど。」
突然そう言われて、私はビクッとしてしまった。
……まさか身内に指摘されるとは思わなかった。
口をパクパクさせて言葉に困ってると、由未お姉さんは苦笑した。
「オトモダチへの依存心の話してたけど、それかて、お兄ちゃんへの想いを断ち切りたいって意志にしか思えへんわ。……自分の気持ちに嘘ついたら、後でしんどくなるよ?」
「……自分の気持ちがよくわからないんです。恋愛感情と依存の違いも。……男のヒトが怖い……でも、お兄さんや孝義くんは怖いことから守ろうとしてくれてるから安心する。そこで止まってるんです。」
すごく不器用なことしか言えなかった。
これでは伝わらないだろう。
唇を噛んでうつむいてると、由未お姉さんがじっと私を見ていた。
その瞳はお母さんの慈愛に満ちた瞳とは違って……何だろう……
ちゃんと伝えなければいけない、そんな衝動にかられた。
「あの、小さい頃に、私、」
「……無理して言わなくていいよ?何となく想像つくから。希和子ちゃん、うなじ、すごく綺麗やのに、ずーっと髪おろしてるし。……お風呂の時に、首の後ろだけ、赤くなるまでこすってるし。嫌な想いしたんかなーって。」
由未お姉さんは、さらりとそう言ってから、少し声をつまらせて、続けた。
「トラウマの一言じゃ片付けられないぐらい、怖い想いしたんだろうな、って。」
なるべく自然にそう聞いた。
「……ああ。ちょっと、ごめん。廊下出てるし。」
義人氏は、そう言って携帯の画面を操作しながら廊下に出た。
廊下からかすかに漏れてくる義人氏の声。
さやかさんと、電話で話してるんだ。
気がついたら、私の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
どうせ2人でいたって何も話せないけどさ、それでも、私にとっては大切な時間だったことを今さらながら思い知らされた。
さやかさん、ひどい。
こんなささやかな時間すら、根こそぎ奪っていくなんて。
淋しいよ。
すごく、淋しい。
最終日は山中温泉だ。
鶴仙渓という緑豊かな川のほとりのお宿では、170平米もあるお部屋に泊まった。
お部屋には源泉かけ流しの露天風呂とミストサウナがついていた。
私たちは、お父さんとお母さんをお部屋に残して観光に出かけた。
恭匡さんと義人氏は地下足袋を借りて渓流釣りに挑戦するらしい。
由未お姉さんと私は、橋の上からこの珍しい光景を見下ろしていた。
妙にはしゃいでる2人がかわいくて……でもやっぱり私の目は義人氏に釘付けで……
「……どう見ても、希和子ちゃんはもうずいぶんと前からお兄ちゃんに恋してると思うんやけど。」
突然そう言われて、私はビクッとしてしまった。
……まさか身内に指摘されるとは思わなかった。
口をパクパクさせて言葉に困ってると、由未お姉さんは苦笑した。
「オトモダチへの依存心の話してたけど、それかて、お兄ちゃんへの想いを断ち切りたいって意志にしか思えへんわ。……自分の気持ちに嘘ついたら、後でしんどくなるよ?」
「……自分の気持ちがよくわからないんです。恋愛感情と依存の違いも。……男のヒトが怖い……でも、お兄さんや孝義くんは怖いことから守ろうとしてくれてるから安心する。そこで止まってるんです。」
すごく不器用なことしか言えなかった。
これでは伝わらないだろう。
唇を噛んでうつむいてると、由未お姉さんがじっと私を見ていた。
その瞳はお母さんの慈愛に満ちた瞳とは違って……何だろう……
ちゃんと伝えなければいけない、そんな衝動にかられた。
「あの、小さい頃に、私、」
「……無理して言わなくていいよ?何となく想像つくから。希和子ちゃん、うなじ、すごく綺麗やのに、ずーっと髪おろしてるし。……お風呂の時に、首の後ろだけ、赤くなるまでこすってるし。嫌な想いしたんかなーって。」
由未お姉さんは、さらりとそう言ってから、少し声をつまらせて、続けた。
「トラウマの一言じゃ片付けられないぐらい、怖い想いしたんだろうな、って。」