夢が醒めなくて
言葉にしてみたら、本当にたいしたことじゃないのかもしれない。
あの頃の私にとっては、世の中の終わり、ぐらい絶望した。
あんなに怖かったのに、私に何ができたと言うんだろう。
「……そっか。何もできひんぐらい怖かったのに、それを責められても……つらかったね。どうしようもないやんなあ。」
由未お姉さんの言葉に、私は顔を上げてうなずいてから、続けた。
「5年生の林間学校の時は、グループの8人で寝てて、私は熟睡してて……同室の子の悲鳴で目が覚めて。そしたら、目の前に、酔っ払ったおじさんがいて……起き上がって逃げようとしたら、髪の毛をおじさんに掴まれてて、よくよく見たらおじさん、私の髪を自分の男性性器に巻き付けてて……気持ち悪くて気持ち悪くて……同室の子が先生を連れてきてくれて、やっとおじさんから解放されたんだけど、最後にうなじに……射精されて……なまあったかくて、生臭くて、気持ち悪くて……。」
震え始めた私を、由未お姉さんはぎゅーっと抱きしめてくれた。
私は、ふーっと息を吐いた。
やっぱり平気にはなれないけど、言ってしまったら、何となく最悪の事態ではなかったんだな、と改めて思えた。
レイプされたわけではない。
そう思うと、意外と落ち着けた。
「中学に入学してからも、囲碁部の先生が色惚けしちゃったらしくて……今から思ったら、たいしたことじゃないのかもしれへんけど、恐怖心でいっぱいいっぱいになってしもて……」
そう。
たいしたことじゃない。
そんな風に思い込もうとしたら、由未お姉さんが言った。
「たいしたことないことない。希和子ちゃんがどれだけ怖い想いして、苦しんできたか!むかつく!そいつらみんなまとめて、報復してやりたい!」
……お姉さん?
まさか由未お姉さんがそんな風に言うとは思わなかった。
驚いてポカーンとしてると、由未お姉さんは私の髪を撫でながら言った。
「我慢強い子やわ、希和子ちゃん。でも、理不尽なことされたら、怒っていいんよ?可哀想に。」
「怒りより、怖いです。ただ、怖い。……光くんみたいに護身術でも習ったら、落ち着くのかな。」
そう返事したら、由未お姉さんは言った。
「それもいいかもね。希和子ちゃんが楽になれるなら、そうしたらいいわ。……私は逆にがむしゃらに報復し過ぎて、自分のことが怖くなったけど。逃げるよりもどうしても許せなくて。死んでしまえ!って本気で思って反撃した自分の闇が後から怖くなってしまったわ。自分が汚れてしまって、恭兄さまにふさわしくない、ともね。」
あの頃の私にとっては、世の中の終わり、ぐらい絶望した。
あんなに怖かったのに、私に何ができたと言うんだろう。
「……そっか。何もできひんぐらい怖かったのに、それを責められても……つらかったね。どうしようもないやんなあ。」
由未お姉さんの言葉に、私は顔を上げてうなずいてから、続けた。
「5年生の林間学校の時は、グループの8人で寝てて、私は熟睡してて……同室の子の悲鳴で目が覚めて。そしたら、目の前に、酔っ払ったおじさんがいて……起き上がって逃げようとしたら、髪の毛をおじさんに掴まれてて、よくよく見たらおじさん、私の髪を自分の男性性器に巻き付けてて……気持ち悪くて気持ち悪くて……同室の子が先生を連れてきてくれて、やっとおじさんから解放されたんだけど、最後にうなじに……射精されて……なまあったかくて、生臭くて、気持ち悪くて……。」
震え始めた私を、由未お姉さんはぎゅーっと抱きしめてくれた。
私は、ふーっと息を吐いた。
やっぱり平気にはなれないけど、言ってしまったら、何となく最悪の事態ではなかったんだな、と改めて思えた。
レイプされたわけではない。
そう思うと、意外と落ち着けた。
「中学に入学してからも、囲碁部の先生が色惚けしちゃったらしくて……今から思ったら、たいしたことじゃないのかもしれへんけど、恐怖心でいっぱいいっぱいになってしもて……」
そう。
たいしたことじゃない。
そんな風に思い込もうとしたら、由未お姉さんが言った。
「たいしたことないことない。希和子ちゃんがどれだけ怖い想いして、苦しんできたか!むかつく!そいつらみんなまとめて、報復してやりたい!」
……お姉さん?
まさか由未お姉さんがそんな風に言うとは思わなかった。
驚いてポカーンとしてると、由未お姉さんは私の髪を撫でながら言った。
「我慢強い子やわ、希和子ちゃん。でも、理不尽なことされたら、怒っていいんよ?可哀想に。」
「怒りより、怖いです。ただ、怖い。……光くんみたいに護身術でも習ったら、落ち着くのかな。」
そう返事したら、由未お姉さんは言った。
「それもいいかもね。希和子ちゃんが楽になれるなら、そうしたらいいわ。……私は逆にがむしゃらに報復し過ぎて、自分のことが怖くなったけど。逃げるよりもどうしても許せなくて。死んでしまえ!って本気で思って反撃した自分の闇が後から怖くなってしまったわ。自分が汚れてしまって、恭兄さまにふさわしくない、ともね。」