夢が醒めなくて
へ?
何の話?
マジマジと由未お姉さんを見た。

苦笑まじりに、由未お姉さんは言った。
「家族にも内緒にしてね。私、レイプされてるん。初体験がレイプ。最悪。」

れいぷ……
え?
ええっ!?

レイプって、最後までやられたって意味!?
びっくりしすぎて、涙がどばーっと滝のように流れ落ちた。

「あらら。また泣いちゃった。ごめんごめん。えーとね、せやから、希和子ちゃんの気持ち、わかるよー、って言いたかっただけねん。ね。大丈夫やから、私は。」

由未お姉さんはそう言って、私の涙を拭いてくれたけど、後から後から涙があふれてきりがなかっ
た。

「でもねー、希和子ちゃんは、正真正銘のお姫さまやと思うわ。やー、やっぱり違うわぁ。」
由未お姉さんは、明るくそう言った。

「すぐ泣くから?」
鼻をすすりながらそう尋ねると、由未お姉さんはニコッと笑った。

「ううん。……身に危険が迫った時って、人間の本性が出ると思うねんか。希和子ちゃんは逃げることも反撃することもできひんねんなあ、って。しかも、危機一髪でちゃーんと誰かが助けてくれてはったやん?常に守られてるお姫さまでいることがふさわしいんやわ。大丈夫!一生、お姫さまとして守ってもらえるよ。幸せになり。」

無理やりそう締めくくった由未お姉さんの気持ちが尊くて、ありがたくて……また泣けた。

「ほんまやで。私は誰も助けてくれへんから、自力で逃げるしかなかってんもん。病院にも自分で行ってんで。正直、自分にそんなパワーがあるとは思わんかったわ。」

由未お姉さんはそう言ったけれど、私は首を横に振った。

「あんまりがんばりすぎんといてください。お父さんも、お母さんも……も、すごく心配してます。お姉さんの健康と幸せをずっとずっと願ってるん、みんなで。今は、恭匡さんがいてくれてはるし安心なはずやねんやけど、それでも祈ってるから。」

ぐしぐしと泣きながらそう伝えた。
由未お姉さんは、目を細めてほほえんだ。

「……ありがとう。まあ、恭匡さんはどこまでいってもお公家さんやからなあ。頭はいいけど、生存意欲も生活能力も皆無。……せやし私、まだまだがんばるよー。」

がんばるんや。
心が強いって、こういうことなのだろう。

レイプも難病も、心が壊れてしまってもおかしくない、壮絶なことなのに、由未お姉さんは挫折しなかったんだ。

……恭匡さんがいるから?
家族に愛されてすくすく育って、唯一無二の伴侶に支えられて?

いや、そうじゃない。
由未お姉さんだって、恭匡さんに負い目があったって言ってた。

生まれが違う。
育ちが違う。

ましてや暴力で傷つけられた身体と心を抱えて、それでも恭匡さんに飛び込めるのも、由未お姉さんの強さなのかもしれない。
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