夢が醒めなくて
女の子のワガママが好きだ。
特に、いつもイイ子にしてる子が俺だけにワガママを言うのがたまらなく愛しい。

だから、最愛の妹はベタベタに甘やかしてきた。
ずっと一緒に育った由未は、俺へのコンプレックスもあり、なかなかワガママが表面化してこなかった。
思春期や反抗期を経て、かわいいワガママを素で言うようになった!と思ったら、他の男にかっさらわれてしまった。
兄妹だから仕方ない?
時代と国が違えば、誰にも渡さなかったのに。

半分妹の百合子は、むしろ逆だった。
気位の高いお姫さまだったが、俺に一目惚れした。
あの頃の百合子のキャラじゃない媚びは、正直、うっとおしかった。
でも妹とわかってからは、百合子は由未に対して傲慢だったことを悔やみ、苦しんだ。
俺に対しても、萎縮し、従順過ぎてかわいそうなぐらいだった。
普通に慈しんでやりたかった後悔は今も苦い。

そんな過去をふまえて、希和を無理やり戸籍上の妹という枠にはめ込んだ。
誰にも遠慮なく存分に愛を注いで大事に大事に育てた。
充分な信頼と、かわいいワガママ、もしかしたら淡い恋心も抱いてくれてるのかもしれない……

当初の予定では希和が俺にちゃんと恋するのを待つつもりだった。
だが、ちょっとめんどうな女とのビジネスが足枷になって希和との距離ができてしまって、俺は焦っていた。

坂巻家の思惑と、孝義(たかよし)くんの存在も脅威だった。
でも、この旅行中、希和が以前のように俺に甘えるようになった。
てっきり俺は、希和が俺への恋心を自覚したかと期待した。

なのに、事態は俺の希望とは真逆の方向へといってしまった。
希和は俺の妹であり続ける選択をした。
まるで悪夢だ。
何の罰ゲームだよ。


「お土産、どうしようかな。」
旅館の売店で希和は俺に残酷なまでのとどめを刺した。
「春秋(はるあき)くんと孝義(たかよし)くんと、今までみたいに同じやったら気ぃ悪いかな。……こないだ珊瑚のお念珠もらっちゃったし。あ、そうだ、お兄ちゃん、私、孝義くんとつきあうねん。」

……なんだよ、それ。

絶句してる俺に満足そうに希和がほほえんだ。
確信犯かよ。
希和、俺を動揺させて楽しんでるのか。

「やめときぃ。好きでもないくせに。」

オトナの余裕を演出しようとしても、ボロが出る。
俺は今どんな顔をしてる?
そう言えば、髪もぐしゃぐしゃだろう。
まだ大学院に籍を置いてるとはいえ、仕事もしてるいいオトナなのに。

「それ、お兄ちゃんが、言う?」

希和、イケズやわ。

ぐうの音も出ない。
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