夢が醒めなくて
これまでの行状が、自分の首をしめる。

……そういや、施設にいた頃から、希和は恋愛や結婚に対して厳格な理想を抱いてるらしく、俺は人間扱いされてなかったな。

鬼畜、猿……誰に言われても気にしなかったけど、希和に言われるとダメージが大きすぎた。

酔って女の子といい雰囲気になっても、希和の顔がちらつくと何もできなくなった。
惰性でつきあってた子たちすら切れて、俺、すっかり枯れてんだけど……って、希和に今、訴えるわけにもいかないよなあ。

「俺と違って、希和は女の子なんやから、失うものも傷つくことも多いやろ。せめて、ちゃんと惚れた自覚を持つまで、」
「やらしい。自分と同じモノサシで計らんといて。孝義くんはお兄ちゃんとは違うわ。」

希和は、キッパリそう言った。
いやいやいや。
それは、誤解だ、いや、幻想だぞ、希和。

坂巻くんは、男だ。
むしろ、ギラギラした男だと思うぞ。

確かに意志は強いだろうけど、つきあうと決まったら、ぐいぐい来るに決まってる。
あいつは、いつまでも手を出せない童貞じゃない!
遠慮なく喰うだろ。

「希和。坂巻くんは健全な男や。つきあうってことは、手出しOKって免罪符を与えてるんやで?何されても逃げられへんし、文句も言えへんで?」

真面目にそう言ったんだけど、希和にはどう聞こえたというのだろうか。

希和は、ぶるぶると震えて涙目で俺を睨んだ。
「……最低。」
そうつぶやいて、希和はパタパタと走って売店を出てしまった。

……ちくしょう。
どう言えばよかったんだよ。

高校生といや、身体はオトナなんだよ。
俺なんか、とっくにやりたい放題、とっかえひっかえヤッてた頃なんだよ。

みすみす、希和を他の男に渡したくなんかない。
それぐらいなら、いっそ俺が……。

……ダメだ。
これ以上、希和に軽蔑されたくない。
どうすればいいんだ……。
   

とぼとぼと部屋に戻ろうとして、妹の由未とバッタリ出くわした。
「おはよう。何て顔してるの?お兄ちゃん、変よ?」

「自覚はある。……おはよう。朝風呂行くん?」
「うん。そのつもりやってんけど……一緒に足湯行かへん?真面目な話、ちょっと話さん?」
由未がそんなことを言い出すのは、珍しかった。

「ああ。ほな、出るか。」
俺たちは旅館を出て、温泉街の足湯へと向かった。
さすがにまだ朝早いので、観光足湯には誰もいない。

「何かあった?希和子ちゃん、泣いてたけど。」
由未がじとーっと俺を見て聞いた。
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