夢が醒めなくて
「俺も泣きたいわ。希和が、同級生とつきあうって宣言したから、そいつに何されてもええんかって、」
「わー、それ、最低。せっかくトラウマを乗り越えようとして前向きになってる子ぉに何ゆーてるん。」
由未は、聞いてられないとばかりに首を横にふってそう言った。

「何や、それ。前向きになって、坂巻くんとつきあうんか?何でそうなるねん!」
何で坂巻くんなんだよ。
俺でいいやろが。

「そう、その子。坂巻、孝義くん?どんな子?」
由未にそう聞かれて、俺はちょっと考えた。
希和の親戚筋に当たることは伏せたほうがいいか。

「でかい寺のぼんぼんやのに、甘ったれてない、修行僧みたいな子や。剣道と空手の有段者で、部活はサッカー部。希和とトップ争いしてるけど、読書ばっかりしてて、がり勉してる様子はない。頭いいんやろな。」

そう答えたら、由未は質問を変えた。
「性格は?希和子ちゃんのこと、ちゃんとずーっと守ってくれそうな子?」

……ずーっと、か。

「遊び歩く奴じゃないな。腕っぷしも強い。既に希和は坂巻くんに助けてもろてるし、睨みを利かせてくれてるから安全な部分もあるやろな。まあ、守ってくれるやろ。でも、坂巻くんかて男や。坂巻くんから希和を守らんと。」

「お兄ちゃん?自分が何ゆーてるか、わかってる?」
由未は完全に呆れていた。

さすがに恥ずかしくなって、俺はうつむいた。
けど、やっぱりどうしても納得できない。

「お互いに好き合ってるんやったら、しょうがないとあきらめもつくわ。でも、希和、坂巻くんに惚れてへんやん。そやのに、坂巻くんに身体投げ出してまで……俺に当て付けてるんやろ。そんなん、ほっとけんわ。」

……希和のさっきの行動。
絶対間違いない。
俺を焦らせて楽しんでいた。

そんなに、俺のことが許せないのか?


「……ほっとけん、って、具体的にどうするの?」
由未は俺の目を見てそう聞いた。

ちょっと焦った。
いや、別に、希和を無理やり抱いて既成事実を作って俺のモンにしてしまう、なんてことは妄想はしても実行できないけどな。

「……反対し続ける。別れろってプレッシャーかける……ぐらいしかできひんな。」

情けない。

でも、希和を傷つけたくないし、軽蔑もされたくない俺には、その程度のことしかできるわけがない。
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