夢が醒めなくて
その夜は、とても眠れそうになかった。
朝秀くんも一緒にいるから、いきなり今夜2人がヤッちまうことはないだろう。

でも、いずれは……そう思うと、悶々としてくる。
希和は、自室にちゃんと戻っただろうか。

夜中の2時過ぎに茶室を見たら、電気が消えていた。
……希和は?

また、真っ暗な庭を独りでさまよってないだろうか。
目を凝らすと、人影が見えた。

希和!またか!
軽く舌打ちして、俺は自室を飛び出した。

庭に出て、さっきの人影を探した。

ダンッ!と鈍い音に続いて、ガサガサッと木々が揺れる音が聞こえた。

なんだ?

音のするほうに行くと……坂巻くんが木を蹴っていた。
希和は、いない。

「……何やってんの?こんな夜中に。修行?」
さすがに、呆気にとられた。

「あー、いや、昼間ここ通った時、甘い樹液の匂いがしたんで、カブトムシとかクワガタがいそうやと思って。」
坂巻くんはそう言って、携帯で地面を照らして這いつくばった。
「ほら、いた……メスか。」

いや、まあ、確かにいるけどさ。
何もそんな、独りで、夜中に虫取りって……小学生かよ。

「虫、好きなんや?」
「……好きゆーか……まあ、好きですね。」
何となく恥ずかしそうに認めると、坂巻くんは立ち上がった。

「もしかして、お騒がせしてしまいましたか?すみません。……寝ます。」
「いや、別に。あー、うん、おやすみ。」

……調子が狂う子だよ、坂巻くん。
坂巻くんと別れて家に戻ろうとしたら、希和が立っていた。

「何してるの?」
何となく、糾弾されてる気がする。

「別に。庭に誰かいたから、降りてきただけ。」

俺がそう言うと、坂巻くんがクワガタムシを希和に見せた。
「ほら、やっぱりいた。メスやけど。」

「え!?……ゴキブリみたい。」
希和がそう言って嫌がると、坂巻くんは残念そうにクワガタをそっと庭に放した。

……坂巻くん、希和に見せたかったのか?
虫なんか見せても、喜ばへんと思うけど。
でも、不器用そうな一面を見て、俺はちょっと坂巻くんに微笑ましさを覚えた。

「明日も勉強するんやろ。もう、寝~や。」
「うん。あ、お兄ちゃん。朝ご飯、サンドイッチ作って~。」
希和が珍しくそうおねだりした。

「これから寝て、朝ご飯?……昼飯やったら、いいで。」
「お昼……まで、いられる?」
希和は坂巻くんを見て、そう尋ねた。

……希和が食べたいんじゃなくて、坂巻くんたちに食わせたいのか?
多少おもしろくない気もするけど、まあ、評価されてると思っておこう。

「俺は昼までに帰るけど、春秋(はるあき)らは残るやろ。」
坂巻くんはそう言って、ポンと希和の頭に手を置いた。

きゅっと希和が肩をすくめて、頬を染めた。

……とても見てられない。
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