夢が醒めなくて
首を傾げてると、ちょっと楽しそうに希和が言った。
「高子さま、ずっと成仏できなくて地縛霊だったんだって。今は、場所限定、それも声しか聞こえないらしいけど自由な浮遊霊なんだって。私もね~、一瞬だけお姿見ることができてん。」
「……ふ~ん。」
幽霊ねえ。
……いや、待てよ。
昨日、突然、坂巻くんが藪に突っ込んだのは、幽霊の示唆でもあったのか?
まさか、な。
希和と坂巻くんは、「清く正しく美しい恋人たち」に見えた。
……俺の希望的観測だろうけど。
どう見ても、ギラギラ肉食系の坂巻くんが、手を出してないはずないよな。
坂巻くんは、宣言通り部活を辞めた。
空いた時間は希和とデート三昧かと思いきや、2人は大学受験を念頭に勉強を始めた。
さらに坂巻くんは、空手をまた始めたらしい。
かつて通っていた道場はとうに閉鎖したとかで、坂巻くんは当時の師範代の開いた道場に通っている。
……聞けば、小門(こかど)の息子で、俺の囲碁の師でもあった光くんが通っている道場だった。
家の仕事もあるだろうに、意欲的にがんばっていると思うわ、うん。
なのに、いったい、いつ教習所に通ったのか、坂巻くんは希和の送迎をするためにバイクの免許まで取得していた。
さすがに、これは双方の親の猛反対で実現しなかった。
いつの間にか、希和は行きしは父親の車で登校し、帰りは坂巻くんが電車で送ってくることで落ち着いていた。
母親が毎日うれしそうにお菓子や夕食で坂巻くんをもてなしていた。
……朝、希和を送ってく役目もはずされた俺は……まるで希和と関わることを禁じられてるかのように、部外者に追いやられた。
同じ家に住んでいるのに、顔を見ない日もあるぐらいに、希和が遠く感じた。
気がつけば、俺は昔のように家に着替えに戻るだけになってしまった。
会社の仕事があるので以前のようにめちゃくちゃに遊び歩くことはなかったが、その分、闇は深まった。
立場上、接待を受けることもあり……雰囲気に流される夜もあった。
父親も秘書の原さんも、文句の一つも言いたいだろうに、何も言わなかった。
仕事に支障をきたさないことだけは死守していたからかもしれないけど、それにしても野放しだ。
世間的には、俺と十文字さやか嬢は結婚前提につきあい続けてることになっているので、それ以上の縁談もない。
退屈を紛らわすために仕事をし、乾きを癒すために酒を飲み、心のバランスを取るために女と交わった。
……自己嫌悪しかなかった。
「高子さま、ずっと成仏できなくて地縛霊だったんだって。今は、場所限定、それも声しか聞こえないらしいけど自由な浮遊霊なんだって。私もね~、一瞬だけお姿見ることができてん。」
「……ふ~ん。」
幽霊ねえ。
……いや、待てよ。
昨日、突然、坂巻くんが藪に突っ込んだのは、幽霊の示唆でもあったのか?
まさか、な。
希和と坂巻くんは、「清く正しく美しい恋人たち」に見えた。
……俺の希望的観測だろうけど。
どう見ても、ギラギラ肉食系の坂巻くんが、手を出してないはずないよな。
坂巻くんは、宣言通り部活を辞めた。
空いた時間は希和とデート三昧かと思いきや、2人は大学受験を念頭に勉強を始めた。
さらに坂巻くんは、空手をまた始めたらしい。
かつて通っていた道場はとうに閉鎖したとかで、坂巻くんは当時の師範代の開いた道場に通っている。
……聞けば、小門(こかど)の息子で、俺の囲碁の師でもあった光くんが通っている道場だった。
家の仕事もあるだろうに、意欲的にがんばっていると思うわ、うん。
なのに、いったい、いつ教習所に通ったのか、坂巻くんは希和の送迎をするためにバイクの免許まで取得していた。
さすがに、これは双方の親の猛反対で実現しなかった。
いつの間にか、希和は行きしは父親の車で登校し、帰りは坂巻くんが電車で送ってくることで落ち着いていた。
母親が毎日うれしそうにお菓子や夕食で坂巻くんをもてなしていた。
……朝、希和を送ってく役目もはずされた俺は……まるで希和と関わることを禁じられてるかのように、部外者に追いやられた。
同じ家に住んでいるのに、顔を見ない日もあるぐらいに、希和が遠く感じた。
気がつけば、俺は昔のように家に着替えに戻るだけになってしまった。
会社の仕事があるので以前のようにめちゃくちゃに遊び歩くことはなかったが、その分、闇は深まった。
立場上、接待を受けることもあり……雰囲気に流される夜もあった。
父親も秘書の原さんも、文句の一つも言いたいだろうに、何も言わなかった。
仕事に支障をきたさないことだけは死守していたからかもしれないけど、それにしても野放しだ。
世間的には、俺と十文字さやか嬢は結婚前提につきあい続けてることになっているので、それ以上の縁談もない。
退屈を紛らわすために仕事をし、乾きを癒すために酒を飲み、心のバランスを取るために女と交わった。
……自己嫌悪しかなかった。