夢が醒めなくて
再び夏が巡ってきた。

蒸し暑い8月の夜、誘われて訪れたワインバーで、さやか嬢と遭遇した。
さやか嬢は、女友達と飲んでいた。

真面目そうなおぼこい女の子で、何となくさやか嬢にそぐわない雰囲気だ。
てか、本当に真面目な子なのだろう。
21時には、明日も仕事だから、と帰って行った。

俺の同行者も、別の女の子と盛り上がって消えてった。
帰宅しても、このところずっと酒や薬なしで眠れない俺は帰る気になれなかった。

「……2人で飲むんは、久しぶりやな。」
さやか嬢は、キョトンとして、そして笑った。

「ほんとね。毎日逢ってるのに。いつも殺伐としてるもんね。」
確かに、俺たちの間に色っぽいモノは何一つなかった。

その夜までは。
俺たちは、たぶん理由を作るために飲み続けた。

「今夜は帰りたくないんだけど。」
見たことのない、とろ~んとした瞳でさやか嬢が口火を切った。

「……恋人と喧嘩でもした?」
まださやか嬢ほどには酔ってなかった俺は、そんな野暮なことを聞いてしまった。

「まあ、そんなところ。義人さんと違って絶望的じゃないけどねー。」
ケタケタ笑ってそう言ってから、さやか嬢はカウンターにくたっと頬をつけた。
つつーっと涙が頬をつたった。

……俺の中に、むくむくと凶暴な欲望が膨れ上がってく。
やばいやばい。
「優しくしてやる気になれへんし、やめとき。……タクシー呼んでもらうか?」

でも、さやか嬢は帰りたくないらしい。
「ふーん?乱暴する?柄じゃなさそ。せいぜい、情熱的程度じゃないの?」
明らかに、おもしろがって、俺を煽っていた。

「買いかぶりすぎ。……まあ、宗和みたいなマニアじゃないけど、好きでもない女に優しくしてやる心の余裕、今は、ないわ。」
「そう?義人さん、根っからのフェミニストだと思うけど。……試してみない?いっぺんだけ。後腐れなしで。」

何てゆーか、ほんと、さばさばした子だよ、さやか嬢。
誘い方が、ほとんど男じゃないか。

「……さやかちゃんほど綺麗やったら、他に男、いくらでもいるやろ。」
あさっての方向を見て、如何にも興味なさそうにそう言った。

したら、さやか嬢はぐいっと俺のネクタイを引っ張って、自分のほうを向かせた。
「だって義人さん、一番都合いいんだもん。」

濡れた瞳が、艶やかな唇が、なまめかしい舌が……彼女の下半身を想像させた。
ただれた生活を送って理性が鈍っていた俺は、まんまと誘いに乗ってしまった。

……結局、明け方までヤッてしまった。
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