夢が醒めなくて
「まあ、好きにすればいいよ。義人くんが婿養子になったら、僕と原さんが綺麗に竹原の会社をたたんであげるから。」
……冗談のようでマジだよな、今の。

「なるべく恭匡さんのお手を煩わせないように努力します。」
今はまだそれしか言えない。

頭を下げて立ち上がった俺に、恭匡さんは追い討ちをかけた。
「悠長に構えてる時間はないのに。原さんが心配してたよ。以前と別人のように鈍いって。」

……わかってる。
「心配?呆れてるんでしょうよ。」
それだけ言って、自室に逃げ込んだ。

原さんだけじゃない。
さやか嬢も、堀正美嬢も、父親も、母親も、恭匡さんも、由未も……希和も……

たまらないな。

あー、シャワー浴びたい。
でも家族と顔を合わせたくない。

夕べほとんど寝てないから、今夜は薬なしで眠れると思ってたんだけど……これじゃ無理だな。
錠剤の睡眠薬をガリガリ噛み砕いて飲み込むと、お気に入りの壱岐焼酎を口に含んだ。
シェリー樽で寝かせた麦焼酎が優しく癒やす。

全てを忘れて泥のように眠った……はずだった。


……寒い。
そういや、エアコンをかなり強く入れたまま寝てしまったかもしれない。
しかも服を脱いだ記憶はあるけど、何かに着替えた覚えがない。

クシュン!
……やばい、風邪ひくわ。

くしゃみ出た……え?
今のくしゃみ、俺じゃない。

重いまぶたを開けると、希和が自分の口許を押さえてばつが悪そうに俺を見ていた。
何で?
今、何時?

「……あの……電気ついてたから、まだ起きてるんかなあ、って……ノックしても返事なくて……」
時計を見ようと頭を上げる。

あいてててて。
頭痛がひどい。
顔をしかめ、頭を抑えて、ようやく起き上がった。

希和が真っ赤になって、慌てて立ち上がり、顔をそらせた。
……なるほど、俺は素っ裸でシーツにくるまって眠っていたらしい。

「マッチョな坂巻くんと違って貧弱やろ?」
自虐ではなく希和をからかったつもりが、両刃の剣だった。

結果的に俺は自分の言葉に傷ついた。
坂巻くんと希和が「正式に」つきあいだして、とっくに一年以上過ぎた。
どれだけ目をそらしても、考えないようにしても、希和は他の男のモノだ。

手を伸ばせば届くのに。
……ほら。
何を思ったか、いや、何も考えず本能のままに、俺は希和の手を掴んでいた。
……冷たい。

いったいどれぐらいの時間、このキンキンに冷えた部屋にいたのだろう。
振り返った希和の瞳に、涙がいっぱい溜まってキラキラしていた。

「ごめん。……泣かんといて。」

そう言って、腕に力を込めて希和を引き寄せた。
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