夢が醒めなくて
「そやな、シーツ洗濯せんとあかんな。」
そう独りごちて、義人氏はシーツごと私を抱き上げた。

「え……あの、待って!」
慌てて、はぎ取られて放置された服と下着に手を伸ばす。

「廊下に落とさんときや。抱えときぃ。」

義人氏はそう言って、チュッとわざと音をたてて唇にキスした。

……ううう……カッコイイ……恥ずかしい……見てられない……でもずっと見ていたい……

結局、すぐ目の下までシーツに顔をうずめて、義人氏を見ていた。

あ……無精髭。
初めて見た。
同じ家で暮らしてるけど、義人氏はいつもキチッとしてからしか姿を見せないから。

そう言えば、下着姿すら見たことないのに、いきなり夕べは裸……いや、今も裸……あああああ。

ジタバタしてる私を連れて、義人氏は24時間加温している温泉へと連れてった。

「シーツ、貸して。」
「ああぁ」

義人氏は私からはぎ取ったシーツを流水にさらしてから、温泉のお湯を頭からザバザバと豪快にかぶって自身を手早く洗った。

そして、シーツについた血液をじっと見ていた私を手招きした。
えーとー……。

タオルで隠しながら近づくと、義人氏は自分の前に椅子を置いて私を座らせた。
「髪、洗うで。」

そう言って、私の髪にそろそろとお湯を注ぎ、義人氏がいつも使っている無香料の石鹸シャンプーであわあわにして洗ってくれた。
髪を洗ってもらってるだけなのに、何でこんなに気持ちいいんだろう。

「かゆいとこありますか~?」
美容師さんのように義人氏がそう聞いてくれた。
「……気持ちいいです。」
そう答えたら、夕べの行為を思い出して……また恥ずかしくなって、うつむいた。

義人氏は、当然のように身体も洗ってくれた。
そのまま、当然のように、また気持ちよ~く料理されてしまった。
そして、当然のように交わった。


「続きは夜って言ったのに……」
ものすごく慌ただしく私は自分のベッドに運ばれた……がくがくブルブルして足と腰に力が入らない。

「うん。夜までゆっくり身体、休めとき。ほな、仕事あるし行くわ。」
優しいキスを落として、義人氏は出て行った。

……もともと、すごーく優しいヒトだったけど……この1年は、ほとんど会話らしい会話もないほどよそよそしかったから……何か、ギャップがすごすぎて……。

これで、惚れるなってほうが無理だ。
義人氏とつきあっていた、複数の彼女さんやセフレさんたちって……独占したくならなかったのかな。

あ……。
思い出しちゃった。
義人氏、前夜は十文字さやかさんとも、こういうことしちゃってたのよね。

何も、私だけが特別じゃない。
わかってる。
わかってるのに……やっぱり、淋しい。

うわぁ。
想像してた通り、つらい。
義人氏のことをますます好きになってしまう。
……どうしよう。
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