夢が醒めなくて
私の熱は思ったより高くまで上がった。
お母さんは心配して、あれこれ世話を焼いてくれたけど、私は夢見心地でふわふわとしていた。

「孝義くん、明日、お見舞いに来るって言ってくれたけど、断ったわよ?」
「うん。ありがとう。」

できたら、夏休みが終わるまで、このまま孝義くんと顔を合わせたくないような気がした。
この幸せな夢から、醒めたくなかった。


一眠りして、昼過ぎに目覚めた。
ずいぶんと汗をかいている。
まだ、熱が上がるのだろうか。
……これじゃ、今夜はダメねえ。
ホッとするより、残念な気持ちが大きい自分に苦笑した。

パジャマを着替えて、携帯を手に取った。

あ。
義人氏からのメールが、3通。
思えば、メールもひさしぶりだぁ。

わくわくしてメールアプリを立ち上げる。
タイトルにのけぞってしまった。

……これは……すごいわ。

1通めは、朝8時半。
会社の駐車場からでも送信したのかしら。

タイトルは、「愛してる」……ひーっ!!!

<夢だったんじゃないかと、何度も頬をつねってる。
 あまりに長い間、恋い焦がれ過ぎて、まだ半信半疑。
 早く希和に触れて、現実だと安心したい。>

……言葉が出ない。
私より、義人氏のほうがふわふわ浮かれてるかもしれない。

2通めは、10時に送られていた。
タイトルは、「眠り姫」……あはは。

<まだ夢の中かな?
 ゆっくりおやすみ。
 でも、俺の夢しか見たらあかんで。
 ……あ、なんか、嫌なこと思い出した。>

これは……うん、私も覚えてる。
あの時、孝義くんとつきあうって決めた日のおやすみの挨拶。
義人氏の前で挑発的に孝義くんが似たようなこと言ったっけ。

そう言えば、夕べも義人氏は、孝義くんのことを言ってたわ。
まあ私もキスマークを指摘しちゃったけど。

3通めは、13時過ぎ。
ついさっきくれたのね。
タイトルは、「信じてほしい」。

<希和が俺のことを信じられないのも当たり前やと思う。
 今の俺は、契約に縛られていて、希和に説明できないことも多い。
 でも、時期がくれば解決するから、それまで待ってほしい。
 希和にいろんな話をしたい。
 いいことも、悪いことも、全部話してしまいたい。
 傷つけてしまうかもしれないけど、聞いてほしい。
 俺と一緒に生きてほしい。>

胸が、ぎゅーっと締めつけられる。
涙がこみ上げてきた。
義人氏の気持ちを信じられないんじゃない。

恋が永遠に続くわけじゃないことが、嫌なんだと思う。
信じたいよ。

でも、義人氏、もてるもん。
こうして離れてる間にも、どんな人と過ごしてるのか不安で仕方ない。

いっそ、義人氏が貧乏で、冴えない不細工だったらよかったのに。

誰にも相手にされない嫌な奴なら、私だけのモノって安心できたのに。
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