夢が醒めなくて
ぐじくじ泣いてたら、電話が急に光って震えた。
慌てて見たら、孝義くんからの着信だった。
鼻をかんで、涙を拭いて、電話に出た。

「もしもし。」
『……大丈夫か?声、鼻声?』

孝義くんが心配そうにそう聞いた。
泣いてた、とは言えないよね。

「うん。大丈夫。夏風邪みたい。ごめんね。うつしたら悪いから、お見舞いとかいらんしね。」
『あほか。お前とは免疫力が違うわ。……邪魔せんし、顔見に行っていいけ?春秋(はるあき)と2人じゃ勉強ならん。』
「気になって眠れへんよ。」

珍しく意固地な私に、孝義くんは黙った。
不自然だったかな。

『高子(たかいこ)さまが……』
「へ?」

急に話が変わって驚いた。

『いや、いいわ。また今度。ほな、風邪治ったら連絡して。お大事に。』
そう言って孝義くんは電話を切った。

「ごめん。」
画面に向かってそう言ったら、また涙があふれた。


とりあえず、義人氏に返信しなきゃ。
いつまでも返信しないから、私が怒ってるか拗ねてると思ってはるような気がする。
ん~。

<返信が遅れてごめんなさい。
 夏風邪をひいたのか、熱が出たので、ついさっきまで眠ってました。
 うつったら大変なので、治ってからお話を聞かせてください。
 私も、二学期になったら、孝義くんに言います。>

なんか、不自然なメール。
義人氏のことを今さら「お兄ちゃん」と言えない。
そして、実態を伴わない関係で我慢してくれてた孝義くんに「別れる」という言葉を用いるのも失礼な気がした。


夕方、お母さんが雑炊と漢方薬とポカリスエットを持ってきてくれた。
「どう?少しは食べられそう?」
飲み干して空になったポカリのボトルを回収して、私のひたいに手を宛てたお母さんは、
「うーん。まだけっこう高いわね。アイスノンも交換しようか。待っててね。」
と言い置いてった。

待ってるつもりが私はまた眠ってしまった。


次に目覚めたのは、夜。
ひたいにひやりと冷たさを感じて目を開けた。

義人氏のお顔がのぞき込んでいた。
「……おかえりなさい。」

にへら~っと、勝手に頬が緩んだ。

「ただいま。風邪やて?……ごめんな。」
そう言って、義人氏は私の手を取って大事そうに口づけた。

きゅーん!

「雑炊、温め直したん、食べる?」
うなずくと、義人氏はうれしそうにお盆を自分の膝に置いた。

自分で食べられるけど……どうも、義人氏は「はい、あーんして」みたいなことがやりたいらしい。
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