夢が醒めなくて
孝義くんはこれまでと同じように帰りも送ってくれた。
さすがに辞退したけど
「何で?受験やめるんけ?ゆーとくけど、あのヒトに教えてもらうとか考えんほうがいいで?勉強ならん思うで。」
という孝義くんの予言を否定することはできなかった。

まあ……いいか。
義人氏がさやかさんとの契約とかいうものを解決しない限り、お父さんやお母さんにバレたくない気もするし。

結局、1学期までと同じように我が家で夜まで一緒に勉強した。
状況がどう変わろうとぶれない孝義くんって、ほんっとすごいと思う。

ただ、まだ風邪が抜け切れてない義人氏がいつもより早めに帰宅して、玄関先で孝義くんとばったり出くわした時には焦った。

お母さんも見送りに出てたし、今さら修羅場になるはずはないんだけど、それでも焦った。

「お帰りなさい。……風邪ですか?お大事に。」
ニヤリと笑った孝義くんに、義人氏は珍しくムッとしていたように見えた。

その後も孝義くんがうちに出入りすることを義人氏は快くは思ってなかったようだが、何も言わなかった。
これ見よがしに甘やかしてくれる2人の間で、私は毎日が幸せだった。


体育祭と文化祭が始まった。
PTA会長でもあるお父さんは、連日学園に来てくださった。
お母さんは義人氏と一緒に文化祭の最終日に来てくださる予定をしてらっしゃる。

「体育祭は来てくれはらへんの?竹原先輩が顔出してくれたら盛り上がるのにぃ。希和子ちゃん、お願いしてーな。」
春秋くんにそう言われたので一応聞いてみたけど、

「残念。俺、出張。……でも、希和にお土産あげるから、楽しみに待っててな。」
と、言われた。

お土産なんて、いらないのに。

「指輪ちゃうか?独占したそうやん、あのヒト。」
100m走でも200m走でもリレーの予選でも平然と1着を獲ってきた孝義くんがそうからかった。

「……そういうんじゃないと思う。まだ。」
確かに独占したがるヒトだと思う。
でも、今はそれができない状況なのだろう。

「ふーん。あ、呼ばれてる。希和子。怪我せんときや。」
「玉入れでどうやって怪我するんよ。行ってくる。」

あまり体育が得意ではない私は、玉入れと応援合戦しか出番はない。

こんなのでも本部席から身を乗り出して私に手を振ってくださるお父さんに私も大きく手を振って入場した。
< 290 / 343 >

この作品をシェア

pagetop