夢が醒めなくて
半信半疑でそう声をかけた直後、本当にお父さんが現れた。

……何で、あの子と一緒なの?
それより、何で、あの子の名前を呼び捨てにしてるの?

胸に言い知れぬ不安と疑惑が広がる。

あ!思い出した!
さっき、大瀬戸先生、電話で「カナトさん」って言ってた。

お父さん、「要人(かなと)」さんだ……。

「希和子!大丈夫やったか!?」
お父さんは、私の両肩に手を置いて心配そうに私の顔を覗き込んだ。

……義人氏と同じ動作を義人氏と何となく似た雰囲気のお父さんがなさるとドキドキしちゃうかも。

「骨折してました。心配かけて、ごめんなさい。」
そう謝ってから、思い切って聞いてみた。

「あの……お父さん?さっきの女の子って、あの……」
お父さんの表情がさっと変わった。
ばつの悪そうな顔になり、視線をそらせてお父さんは言った。

「お母さんには内緒にしといてくれるか?」

!!!
てことは、やっぱり……そういうことなの?

驚いたけど、天花寺(てんげいじ)の恭匡(やすまさ)さんの従妹で、夫婦養子にならはった百合子さんも、本当はお父さんの娘さんなわけだし、まあ、他に隠し子がいてはってもおかしくないのか。
お母さんは桜子ちゃんの存在をご存じなのかしら。

イロイロ考えるとものすごく複雑な気持ちになったけど、私は黙ってうなずいた。
お父さんはホッとしたようにうなずいて、それから慌てて付け足した。
「由未にも。」

……てことは、義人氏は知ってるんだ……へえ~~~~~。
こっくりうなずいたけれど、それ以上の言葉は出てこなかった。

「社長。」
やってきた秘書の原さんが、沈黙を破ってくれた。

ホッとしてお父さんが原さんに「あぁ。」と返事をした。
原さんは私に会釈して言った。
「希和子さん。大変でしたね。私が学校までお送りいたします。どうぞ。」

「……ありがとうございます。」
お父さんは?
桜子ちゃんと……大瀬戸先生と一緒ってこと?

ものすごくモヤモヤしたけれど、私は原さんの誘導に従った。
「あ、じゃあ、私も~。いいかしら?はい、姫。痛み止め。」
薬剤師の和田先生がそう言ってお薬の白い袋をひらひらした。

「もちろんです。どうぞ。ご迷惑をおかけいたしました。」
貼り付けた笑顔で原さんは和田先生からお薬を受け取り、車へといざなった。

「……姫は嫌なのに。」
私の小さなぼやきは黙殺された。
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