夢が醒めなくて
車に乗ってから、和田先生に聞いてみた。
「大瀬戸先生って、うちの先生だったんですか?……すごく綺麗なヒトですね。」

あれ?
原さんがミラー越しに睨んでるような気がする。

「でしょ?10年ぐらい前までうちの保健室に居てくれたの。ずっと居て欲しかったんだけど、桜子ちゃんを授かっちゃったからね~。ね~?」
和田先生は、わざわざ運転席の原さんに同意を求めた!

原さんはものすご~く怖い目でジロッと見たけど、和田先生は平然としていた。
……大瀬戸先生、お父さんと不倫してて……桜子ちゃんを妊娠したから学校を辞めたってことなんだろうか。

「まあでも昔はクールビューティーだったのに、ずいぶんと柔らかくなったわね。今の旦那さん、イイヒトなんでしょうね~。幸せそうでホッとしたわ。」
和田先生は、たぶん、お父さんへの嫌味を原さんにぶつけてたんだと思う。

原さんは学校に帰り着いても、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


桜子ちゃん。
かわいい子だったなあ。
義人氏や由未お姉ちゃんの、腹違いの妹ってことになるのか。
百合子さんも美人さんやけど、桜子ちゃんもめちゃめちゃ綺麗になりそう。

……お父さん、ちゃんと認知してはるのかしら。
義人氏が明後日まで帰ってこないの、残念。
大きすぎる秘密を独りで抱えてるのって、けっこうつらい。


その夜、遅くに、義人氏が電話をくれた。
「遅いから、綺麗なお姉さん達のとこで飲んでるんかと思った。」
ちょっと拗ね気味にそう言ったら、

『あほやな。』
って、義人氏の優しい笑い声が耳孔をくすぐった。

『体育祭どやった?』
「あ~、うん……指、骨折しちゃった。」
『はあ!?足?手?何で?こけたん?』
「左手の薬指。玉入れの時に踏まれちゃって。」

恥ずかしいな。

『そうか……病院行ったんやな?』
「……うん。」

大瀬戸夏子先生と桜子ちゃんのことを言おうかちょっと迷ったけど、電話で話すようなことじゃない気がした。

『あんまり無茶せんときや。……てか、希和?何でもっと早く俺に知らせてくれへんの?無理やりでも飛んで帰るのに。』

今度は義人氏が拗ねモードだ。

「うん。たぶんそう言い出すやろうから、って思って。原さんも、義人さんの邪魔したくないから報告しないっておっしゃってた。」
『……なあ?今のって、原さんがそう呼んだん?』

突然、義人氏の口調が変わった。
何のことかわからず、ちょっと困ってると、義人氏が聞き直してくれた。

『希和の中で、俺はやっと兄から男に昇格した?お兄ちゃん卒業?』
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