夢が醒めなくて
「孫やのに内緒にされて意地になってはる部分もあるやろけど、希和子に気ぃ遣ってはるんかもな。」
孝義くんがそう言うと、春秋くんがポンと手を打った。

「いいこと思いついた!結婚式に招待!無理やり親戚づきあいスタートさせるには持ってこいの場やで。」
強引な気がしたけど、孝義くんもうなずいた。

「……検討する。でも、まだまだ先の話だと思うけど。」
そう返事したけど……そう遠くない未来かもしれない。


夕方、2人に送ってもらって帰宅した。
いつも出迎えてくれるお母さんが姿を見せなかった。

お庭かしら。
彼らを見送ってからお庭を探すと、奥のほうにいた!
お母さんはシートを敷いてうずくまるように座っていた。
寝てるわけじゃなさそうなので声をかけてみた。

「お母さん、ただいま。」
「逢えた?」
お母さんは振り向きもせず、そう聞いた。

「……桜子ちゃんには逢ってません。夏子さんは飛んできてくださいました。床に手をついて謝られてしまいました。お母さんと、義人さんのお嫁さんになるヒトに、一生罪悪感が消えないそうです。」
そう言ってから、お母さんの背中にぴとっと頬をくっつけて抱きついた。

お母さんの、すずらんと草原の香りに、張り詰めた心がゆるんだ。
「夏子さん、別に加害者じゃないのに、こんなの淋しいです。せめてお母さんを桜子ちゃんに逢わせたげたい。お父さんだけ、ずるいもん。」

そう言ったら、お母さんの身体が震えた。
声もなく泣いてらっしゃるようだった。


しばらくするとお母さんは真っ赤な目でくるっと振り向いた。
「逢いたい気もするけど義人には一生逢わせたくないから、いい。それより、希和ちゃんが義人と私に天使を産んでくれるのを楽しみに待ってる。学生結婚でもいいわよ。私が育てたげるから。」

「……桜子ちゃんほど綺麗じゃなくても?」
そう言ったら、また泣けてきた。

お母さんは驚いたらしく、慌てて私を抱きしめてくれた。
「そう。そんなこと気にしたの。馬鹿ね。うちの子が世界で一番かわいいの。……それに、そんなこと二度と言っちゃダメ。思ってもダメ。百合子さんと由未のどっちが美人かなんて、明らか過ぎて、今さらどうでもいいことでしょ?」

ハッとして、私は慌てて謝った。
「ごめんなさいっ!」

そっかあ。
私の悩み事なんか、全部お母さんが乗り越えて来られたことばかりなのかもしれない。

「はい。」
お母さんは、小さなブーケを私にくれた。

ヒヤシンス?
春の花がいっぱい咲いてるのに、何故にヒヤシンス?
よくわからないまま、お母さんに手を引かれてお家に戻った。
爽やかな香りのヒヤシンスのブーケを片手に。
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