夢が醒めなくて
その夜も義人氏は遅かった。
日付が変わっても帰って来ない義人氏を待ちくたびれて……私は眠ってしまった。
図々しくも、義人氏の部屋で。
……さすがにベッドに勝手に入るのはお行儀が悪すぎる気がしたので、ソファにもたれてたんだけど……

「希和。」
優しい声が私を呼び起こした。
「待っててくれたんか。」
そう言って義人氏はするりと私の両脇に腕を入れると子供のように抱き起こして、そのまま抱っこしてくれた。

半分ぐらいしか目が開けられないまま私は義人氏の首に両腕を回してしがみついた。
「うん。待ってる。ずっと待ってる。でもただ待ってるのやめたの。」

「へ?……これ、何の匂いや?トイレの芳香剤?」
義人氏の言葉にパチッと目が開いた。

そしてうるっと涙がこみ上げてきた。
「ひどぉぃ。これ、ヒヤシンスなのに。……お母さんの香水のすずらんを蚊取り線香臭いって言ったり、デリカシーない~。お花の名前や花言葉は詳しいくせにぃ。」
むずがる赤ちゃんのような私に義人氏は目尻を下げた。

「図鑑じゃ匂いはわからんからな。……ヒヤシンスか。花言葉は、」
「やぁ~~~~。せっかく調べたのに、言わんといてよぉ。私が言うの~。悲しみを超えた愛!!!」
義人氏の言葉を遮って、私はポロポロ泣いてしがみついて甘えて、最後は叫んでいた。

マジマジと私を見て、義人氏は首を傾げた。
「……デリカシーないんはどっちやろ?」
確かにそうかもしれない。

鼻をすすって、気恥ずかしくなってうつむいた。
「悲しみ、乗り超えてくれたんか?」
義人氏は私の顔をわざわざ上げさせて、そう聞いた。

ちょっとくやしくて、一旦、口をつぐんだけど、意地を張るためにココで待ってたんじゃない。
「違う。乗り越えてない。悲しい。たぶん一生みんな悲しい。でもそれ以上に好きなの。だから悲しくなったら宥めてくれる?めんどくさいかもしれないけど、ずっと面倒見てくれる?」

……あれ?
これってプロポーズ?
何で、私がしてるんだろう。
こんな筈じゃなかったんだけど……まあ……いいか。
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