夢が醒めなくて
ずっと夢を見ていた。

俺の溢れんばかりの愛情を全て受け止めてくれる女(ひと)。
そして、常に餓えてる俺の心を愛情で満たしてくれる女。

……やっと手に入れた。
もう、放さない。

絶対に、悲しい想いをさせない。
俺が、ずーっとずーっとずーっと幸せにしてあげたい。



4月の春の夜。
慣れない総会の票集めに奔走し、クタクタになって帰った自室に希和がいた。
トラウマと言っても差し支えない俺の過去の古傷を知って以来、俺に心を閉ざして人形みたいだった希和が、自分の意志で俺の部屋にいることが信じられなかった。

ソファの背もたれに身体を預けて正体なく眠る希和の目尻には涙の跡がこびりついていた。
……泣いていたのか。
あれ以来、希和は俺の前では泣くことも笑うこともなくなってしまった。
まるで昔に戻ってしまったようだ。
それだけ深く希和を傷つけてしまったのだろう。

何も言えなくて俺もつらかったけど、希和のつらさは比較にもならないよな。
かわいそうに。
せめて、涙を忘れるように、希和が安心して眠れるように、抱いていてやりたい。

「希和。」

半分目を開けた希和は、今までとはちょっと違う反応を見せた。
俺の首にしがみついて、ぐずりだした。

……会話は成立してるから、寝ぼけてるわけでもなさそうだが。
しかし、さすがに花言葉に乗じて今の気持ちを伝えてくれた時には、俺の理性も吹っ飛んだ。

「違う。乗り越えてない。悲しい。たぶん一生みんな悲しい。でもそれ以上に好きなの。だから悲しくなったら宥めてくれる?めんどくさいかもしれないけど、ずっと面倒見てくれる?」

返事を言葉にするのももどかしく、キスした。
深く深く口づけて、希和を抱く。
ベッドに移動する余裕も本当はなかったけれど、希和につらい姿勢を強いるのは本意ではない。
抱き上げてベッドスプレッドをめくることなくそっと下ろすと、大事に大事に慈しみ、希和と1つになった。

涙が止まらないらしい希和に言った。

「めんどくさくない。希和のワガママも、涙も、おねだりも、拗ねるのも、全部愛しい。てか、そーゆーのも全部俺が独り占めしたいぐらいや。何でもぶつけてくれたらいい。悲しいこともうれしいことも全部聞かせてほしい。ずっとそばにいるから。」

全部本気だった。
何を言われても受け止める。
その覚悟はできている。

俺の想いは、ちゃんと希和に通じたらしい。

希和は、うなずいて、一息ついてから言った。
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