夢が醒めなくて
「今日、夏子さんとお逢いしてきたの。夏子さん、私に手をついて謝らはって……お母さんと義人さんのお嫁さんになるヒトに、一生罪悪感が消えないっておっしゃるの。夏子さんが悪いわけじゃないのに。」

……は?

え?
ええっ!?

マジか。

さすがに、それは……俺のキャパを超えたわ。

「希和、行ってきたん?わざわざ?神戸に?お母さんと?」
びっくりしすぎて質問攻めにしてしまった。

「ううん。お母さんは、拗ねてはるねん。お父さんだけ孫に逢ってずるいって、自分は何も聞かされてへんって。せやし、春秋(はるあき)くんと孝義くんと3人で行って来た。阪急と阪神乗り継いで。」

……何であいつらまで……おいおいおい。
勘弁してくれよ。
頭をかきむしりたくなる苛立ちを押さえ込んで、希和から事情を聞いた。

「ほな、お母さんに聞いたん?」
「うん。お父さんの手帳に桜子ちゃんの写真が挟んであったのをお母さんが見つけて興信所で調べてもろてんて。てっきりお父さんの隠し子やと思ってはったから、お母さん、どうしたらいいかわからへんかったみたい。でもそりゃ可愛い孫には逢いたいよね。何とか、逢わせてあげたいねんけど……」

そこまで言って、希和は俺に顔を近づけた。
そして睨み付けるように言った。

「お母さん、逢う気はないって言うてはるねん。義人さんに、夏子さんや桜子ちゃんと絶対に逢ってほしくないから。」

……なるほど。

母親らしい気遣いに、ちょっと胸が痛んだ。

そうか……。

「俺はどこまでも親不孝やな。」

そう呟いたら、希和がムーッとむくれてペチペチと俺の胸を叩いた。

「そういう自己陶酔いらんから。ちゃんと考えて。義人さん抜きで、お母さんと桜子ちゃんを逢わせてあげられる機会。桜子ちゃんがちっちゃいうちは、無理かなあ。夏子さんかて、心配よね。桜子ちゃんだけ来てもらうわけにもいかへんし……。」

希和は真面目に母親に桜子を見せてやりたいらしい。

……俺も逢ったことないんだけど……それでも、俺には逢いたいと言う権利はないんだよな。
しょせん、俺は何も知らされないままの情けない男なんだから。
複雑な想いはあるけれど、かわいい希和のために俺は1つ情報をばらした。

「……小門のところの光くんな、桜子は数少ない仲良しのお友達やそうや。」
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