夢が醒めなくて
希和はガバッと起き上がった。

「何!?それ!聞いてない!」
「うん、まあ。初めて言うたな。」

悪びれずにそう言ったけど、希和はちょっと頬を膨らませた。
かわいくて、ついその頬を人差し指でつついた。
ら、希和は何を思ったか、俺の人差し指に食いついた。

歯を立てずに舌で俺の指をくすぐる希和……おいおいおい。
希和に、いわゆるフェラのような性技を教えたことも要求したこともない俺は、突然の希和の攻撃に不意打ちを食らった気分だ。

「くすぐったいって。希和。」
そう言って指を引き抜こうとしたら、噛まれた。




数日後、ゼミの後で小門ん家(ち)に押しかけた。
「光くーん。今度、うちに遊びに来ない?薫くんも、お友達も一緒に。」

さすがに気恥ずかしいので、事情は伏せたまま小門たちを園遊会に誘った。

「さっちゃん?」
光くんは相変わらず、鋭いと言うよりは、何もかもお見通しとしか思えない。

「桜子、来よるん?行くー!」
まだちっちゃいのにいつもはしっかりしてる薫くんのほうが、騒ぎ出した。

「春休みにさっちゃんといっぱい遊んだのに。薫はさっちゃんが好きだねぇ。」

光くんは、小学3年生になった。
今も人見知りらしいけど、俺には好意的でありがたい。

「光かて、桜子は一緒にいても平気なくせに。お兄さん、桜子知ってるん?」

光くんも薫くんも、母親のあおいちゃんの真似をして、俺を「お兄さん」と呼ぶ。
しかし、なぜ、光くんは「さっちゃん」なのに、薫くんは呼び捨てにしてるんだろう。

「んー、逢ったことはないけど、昔から光くんがアルバム見せてくれてたから、知ってるよ。」
なるべく嘘が混じらないようにそう答えた。

「……いいよ。さっちゃんも一緒なら、行く。」
光くんは笑顔でそう言った。

「俺も俺も!電話する!桜子!桜子!」
薫くんがぴょんぴょん飛んで喚いた。

「こら。薫。家の中で飛ぶんじゃない。」
隣の部屋で自主ゼミの予習をしてる小門が、やんちゃな薫くんを窘めた。


あおいちゃんが帰宅すると、光くんはパアアッと顔を輝かせてあおいちゃんに突進した。
「あーちゃん!」

……なんか、前より光くんのマザコン度、上がってないか?
薫くんは普通に迎えてるだけに、光くんのベタベタぶりに驚いた。

「妬けない?」

そう聞いてみたら、小門は肩をすくめた。

「仕方ない。光にならあおいをとられても、あきらめざるを得ない。まあ、さすがに、あおいも思いとどまってくれると信じてるけど。」

……仕方ないかぁ?
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