夢が醒めなくて
「兄妹よりまずいで?母子やで?オイディプスや。」

小門は鼻で笑った。

「それはそうと、さっきの話……訳あり?何で今年はわざわざ子供らを呼ぶことになったん?」
小門にそう聞かれて、俺は苦笑して見せた。

「ああ。情けなさすぎる訳あり。かわいい子供たち、いっぱい集めて母の機嫌とろうかと。……噂の十文字さやか嬢に母がピリピリしてて大変なんや。」

準備していた理由を、なるべく自然に言ってみたけど、光くんも小門もあおいちゃんも鋭すぎて、見透かされてるような気がしてしょうがない。
子供たちが喜びそうなお菓子やおもちゃ、いっぱい準備するから許してくれー。




「ふーん?義人さん、いいことあった?」
いつものランチの時に、十文字さやか嬢が俺の顔を覗き込んだ。

「……別に。」

さやか嬢に希和とのことは一切言ってない。
プライベートの男女関係は契約に抵触しないが、さやか嬢との過去もある。
なるべくなら手のうちを明かさないほうがいいだろう。

黙秘を決め込んだ俺に、さやか嬢はため息をついた。
「ま、いいわ。……票、まだ足りないんだから、あんまり浮かれてないでよね。ムカついてくるから。そろそろ正攻法じゃ限界でしょ。……いい?」

既にいくつかの非合法手段の準備はできている。
なるべくなら普通に攻略したくてココまでがんばってきたんだけど、そろそろお手上げ。
株主総会まであと2ヶ月ちょい。
……頃合いかもしれない。

「ああ。仕方ないな。出し惜しみして負けたら目ぇも当てられんからな。」

さやか嬢は、ニッコリと凶悪な微笑みを浮かべて、ずいっと膝を詰めた。

「……それじゃ、今までありがとう。ここからは、義人さんは、どーんと構えてくれてたらいいから。」

それは、まさかの戦力外通告だった。
さやか嬢の意図を計りかねて、俺は表情を消して、さやか嬢をじっと見た。

「うん。そんな感じ。黙って座ってくれてるだけで、助かるから。……さすがに、直接、汚いことまでさせられないし。」

……俺にはそこまでの能力はない、と見限ったってことか。

今さら、さやか嬢が俺の身の保全を考えてくれるとは思えない。
まあ、それでも俺の背景がさやか嬢には必要なのは間違いないわけか。

「……じゃあ、代わりに使える人材を貸すよ。」

脳裏に浮かんだのは、秘書をしてくれてる原さん。
さやか嬢は、非情なやり手だ。
俺よりずっとシビアな能力主義で、役に立つ人間を迷わず重用するだろう。

……単に有能な人間を送り込んだら、懐柔されるのがオチだ。
金銭や地位の約束のみならず自分の身体さえも籠絡に使う美女に惑わされない人物なんか、なかなかいるもんじゃない。
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