夢が醒めなくて
「あら。だぁれ?若くて優秀なイケメンがいいな~~~。」
さやか嬢は、頭の足りなさそうなかわいいこぶってそう言った。

「もう、そのキャラ封印したら?立場もやけど、年齢的にも痛いやろ。」

ムッとしたようにさやか嬢が口をつぐんだ。

……拗ねてる。

「優秀なイケメンや。年齢は上やけど。秘書の原。」

さやか嬢の眉毛がぴくりと動いた。
「……原さんならお願いしたいけど……その気になってくださるかしら。」
「どうかな。」

何となく、さやか嬢の反応は新鮮だった。
どうやら原さんのことも調査済みらしいな。

「本人に直接聞いてみれば?」
「そうね。呼んで。」
「は?今?昼休みやで。」

俺には、休み時間に突然原さんを呼び出すことはためらわれた。
もちろん父親は平気で24時間いつでも呼び出すだろう。
でも、それは長年の信頼関係があるからで……俺がそれをやるわけにはいかない。

「……義人さんは、フェミニストというより人権主義者なのね。」
あからさまに、さやか嬢は俺を馬鹿にしたようだ。

「会社という組織の中で俺を育てるために甘んじて下についてくださってる年長の人を顎で使えるわけないやろ。さやかちゃんも独断的なのは仕方ないとしても、社員は召使いでも奴隷でもないんやから、気ぃつけや。足元すくわれるで。」

なるべく穏やかにそう窘めたけど、果たしてどこまで通じてるやら。
そういう意味でも、もはや俺ではさやか嬢のビジネスパートナー失格だな。
原さんに教育されてくれるといいんだけど。



13時に会社に戻ると、すぐに原さんに相談した。
これまでも、事情を察してかなり助けてもらってはいたが、全面的な協力を請うことになるとは思わなかった。

「結局、俺の手には負えないようです。情けないですが。助けてもらえますか?」
自分の無力を認めるのは恥ずかしい。
けど、意地を張っても仕方ない。
開き直って、これまでの資料や、さやか嬢との契約書、堀正美嬢に作成してもらった証書の数々を全て開示した。

原さんは、黙って目を通して無表情で頷いた。
「確かに、弁護士先生は優秀でいらっしゃいますね。今後も私的な案件をお任せして、将来に繋げられるといいでしょう。問題は、思い上がったじゃじゃ馬お嬢さま、ですねえ。ご自分のモノにされてイニシアチブを取られればよろしかったのに。」

さらりと鬼畜なことを言ってるし。
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