夢が醒めなくて
公園の地下に駐車場があることは看板や標識で知っていたけれど、実際に入ってみると何だか異様な空間に思えた。

「核シェルターみたいですね。」
非現実的な風景に驚いてそう言うと、義人氏は首を傾げた。
「そこまでの耐久性があるんかなあ?あったらいいけど。」

そう言ってから、義人氏は歩きながら、ぐいんと腰を曲げて私の顔を覗きこんだ。
「もしかして核戦争の本とか読んで怖くなったことある?」

ドキッとした。
ある。
架空の話だとわかっていても、やっぱり怖い。

黙ってかすかにうなずくと、義人氏は明るくほほ笑んだ。
「やっぱりね!俺もあるねん。めっちゃ怯えてた。でも、大丈夫。米ソの対立は落ち着いてるし、北朝鮮や中東テロリストにそこまでの力はないし。第一、誰も得せんこと、わざわざしいひんって。」

よくわからないけれど、義人氏が私の不安を取り除こうとしてくれてることは伝わってきた。

荒唐無稽な物語で言いようのない不安にかられてるだけなのに、逆に現実的な危険を指摘された気分なんだけど……
まあ、いいか。


図書館にはけっこうヒトがいた。
綺麗だけど、思った以上に狭い?
書架も充実してるとは言い難い。

キョロキョロしてると、義人氏が手招きして、小声で端末の説明をしてくれた。

とりあえず、今、見てみたいのはなるべく古い版の「たけくらべ」。
検索してみると、1912年つまり明治45年に出版された全集の後編がこの館にある最古の「たけくらべ」らしい。
樋口一葉ではなく樋口夏子と記されている。

100年以上前の本!
テンションが上がってると、画面を横から覗いた義人氏が首を捻った。

「なんや。新しいな。画像でよければ近デジでのほうがもっと古い版を見られるで?」
「きんでじ?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げた。

「近代デジタルライブラリー。待ってや。」
そう言って義人氏は自分のスマホをチョイチョイいじって、見せてくれた。
「ほら。こっちのほうが古い。明治30年出版。」

こんなのあるんだ!
すごい!

「知らんかった?もちろんパソコンからも見られるわ。でも、希和子ちゃんは実際に本を手にとって読みたいかな?」

義人さんにそう聞かれて、私は誘導されるようにうなずいた。

「じゃあ、請求してみようか。プリントアウトするで。」
ニッコリと満面の笑みを浮かべて、義人氏は本のデータをプリントアウトしてカウンターに持って行った。
 
しばらくすると、奥から本が運ばれてきた。

100年以上前の本なのに、こんなに簡単に、手に取れるなんて。

身震いするほど興奮した。
< 36 / 343 >

この作品をシェア

pagetop