夢が醒めなくて
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。
「見終わった~。」
照美ちゃんがパタパタと走って降りてきた。

「面白かった?」
義人氏の問いに照美ちゃんはうれしそうにうなずいた。
「でも、お尻が痛い。そろそろ、帰る?」
私はうなずいて、席を立った。

「ほな、返却してくる。」
そう言って、義人氏は私の借りていた分の本も積み上げてカウンターに返却した。

「ついでに何か本、借りてくればよかった……」
駐車場へと歩きながら照美ちゃんにそう言うと、前を歩いていた義人氏が振り返った。
「じゃあ明日また来るか?」

びっくりした。
そんな、連日……いいの?
「義人さん、暇なんですか?」
呆れたように照美ちゃんがそう聞いた。

「うん。暇。夏休みやからね~。」
……そんなこと、ないだろう。
昨日まで、他の施設にボランティアに回っていて疲れてるようなことをさっき言ってたのに。

辞めたのかな?サークル。
よくわからないけど、ただの気まぐれかもしれないけれど……私は、渡りに舟と飛びついた。
「総合資料館。行ってみたいです。」

「希和ちゃん?」
ギョッとしたように照美ちゃんが私を見た。

義人氏も目を見張ったけれど、ニッコリと笑顔でうなずいてくれた。
「了解。俺も調べ物したかったし、ちょうどいいわ。」
……まだ、やくざのこと、調べるのかしら。


「総合資料館って、どんなところ?」
施設に帰り着いてから、照美ちゃんが私にそう尋ねた。

「んー。図書館みたいに貸し出しするとこじゃなくて、資料を閲覧するところ?本ももちろんあるけど、普通の文学作品とか小説じゃなくて、辞典類とか全集とか?資料本?」
私も行ったことはないのだけれど、知っている範囲で答えた。

「……今日みたいな映画はない?よね?」
「たぶん。映像資料はあるかもしれへんけど。」
確か、歴史資料館ではお祭りとかの映像を見られたはず、とうろ覚えの記憶でそう言った。

照美ちゃんは黙ってしまった。
この様子だと、明日は一緒に行ってくれないな。
まあ、興味がないのに長時間付き合わせるのはかわいそうかな。
うーん……。




翌日の午後、義人氏は本当にやって来た。
「総合資料館なら中学生の子ぉに、いいひんかな?興味ある子。」
義人氏は本当に親切心で声をかけたんだと思う。

でも、誘いに飛びついたのは、資料館ではなく義人氏に興味いっぱいの女子達。
……義人氏は乳児から小学生までとしかボランティアで関わってこなかったけれど、実は中学生にも高校生にも注目されて狙われていたようだ。

「7人か~。車、無理やなあ。ほな、バスで行こうか。」
義人氏は、女子の秋波を一向に気にする様子もなく、いつも通り振る舞っていた。
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