夢が醒めなくて
てか、あの時、もし由未がこの小門に惚れてたとしたら?

もちろん既に小門にはあおいちゃんがいたようなので、由未はあっさり振られただろうけど。
……じゃあもし、あおいちゃんが存在してなかったら?

目の前の男をマジマジと見る。
一見冷たそうに見えなくもない整ったシャープな顔立ちに、熱さを秘めた瞳。
銀の細いフレームの眼鏡は、アンティークっぽい繊細なもので、すごく似合っている。
これで頭もいいって、反則だよな。

まあ、妹の婿としては文句なしだ、うん。


クスッと、小門が小さく笑った。
「……竹原は、いい奴やな。頭もいいし、みんなに親切なのに、嫌味も卑屈さも感じんわ。友達としては最高、恋人としては不安だろうな。」

誉められた!
そして、当て擦(こす)られた!

「俺なんかこの大学では凡人やわ。小門こそ、すげーやん。囲碁か何かで世界一になったことあるんやろ?」
確か由未がそんなこと言ってたなあ、と思い出してそう聞いた。

小門の頬が少し赤くなった。
「いや。連珠。子供の時やし、競技人口少ないからたいしたことじゃないわ。恥ずかしいから、あんまり、それ、言わんとってくれるとありがたい。……それに、俺も凡人。妻とは比較になりよらんわ。」

充分誇れることなのに、小門は本気でそう言っていた。
あおいちゃんは天才と呼べるレベルらしい。

「確かに、奥さん、全てを見透かしてるっぽいもんなあ。一緒にいて、それこそ、卑屈にならへん?」
俺がそう尋ねると、小門はニッと笑った。

「楽(らく)や。俺、あまり人付きあい得意ちゃうから、竹原みたいに女子のめんどくさい話をふんふん聞いとられんねん。イライラする。あおいは、簡潔な言葉で類推し合えるから助かっとるわ。あー、竹原も。さっき、俺の番号言わんでも、かけてくれとったやん?」

「いや、あれは、先週、ゼミ名簿作るのに、連絡先書いて回したやん?俺、小門より後に書いたから。」
そう答えて、苦笑した。

なるほど、記憶力を鍛えてる俺にとっては造作もないことだが、普通は覚えないよな。

「向いとーわ。ボランティア。竹原に。」
小門はそう言って、廊下の向こうに目をやった。
噂の浦川花実嬢がこっちに来る。
もう少しこいつと話したかったな、と後ろ髪を引かれた。

「なあ、また飲みに行かへん?」
ついそう誘ってしまった。

こいつが、部活もサークル活動もせず、講義が終わると速攻で神戸に帰ることを知ってるのに。

「あ、無理ならランチでも……。」
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