夢が醒めなくて
モテモテですね……そう言いたかったけど、辞めた。
何となく、このヒトにとっては珍しくもない状況なのかもしれないと気づいたから。

……ばかばかしい。
私には関係ない。
賑やかな集団を冷ややかに眺めつつ、資料館へ向かった。

資料館は思ってた以上に古くて大きかった。
高い書架はまるで外国映画の書庫のよう。
すごい!

「資料の検索と請求方法、わかる?私語厳禁やで~。」
義人氏はちゃんとみんなにこの館の使い方を教えてあげていたけれど……そもそも本にも歴史資料にも興味のないヒト達ばかり。
すぐに飽きて、義人氏をお茶に誘ったり、外に出ようとしていた。

「今日は16時過ぎまでココを動かへんし、終わったらまっすぐ施設に帰るだけ。寄り道なし!……飽きた子ぉは自力で帰っていいで~。門限までに帰りや。」
義人氏は笑顔でしれっとそう言って、あれだけ群がっていた女子をあっさり蹴散らした。

鮮やかだわ。
でも、いいのだろうか。
「大丈夫ですか?」
ちょっと心配になって義人氏に聞いてみた。 
「うん。事務の職員さんに言うてきてるし。昨日の照美ちゃんみたいに小学生は放り出すわけにいかんけど、中学生は自力で帰れるから大丈夫って許可もろてきた。……しかし、誰1人、本来の目的で来てる子がいいひんとは。希和子ちゃんが息苦しいゆーてたんは、仲間がいいひんことも大きいんやな。」

仲間?

「読書仲間?」
「本だけじゃなくて、知的レベルとか知識欲?学術や美術に対する理解と造詣。文化的な話ができる相手。」

……確かに、いない。

口惜しいけれど、否定できない。
うつむいたけど、やっぱり口惜しい気がして、もう一度義人氏を見た。

義人氏は、うん?と軽く首を傾げるように反応してから、膝をかがめて私の目を覗き込んだ。

それ、反則だわ。
子ども扱いしてない、対等に扱ってますよ~って気持ちが伝わってくると同時に、オトナの余裕と、埋めようのない立場の格差を感じる。

つまり、恥ずかしくて、口惜しくて……うれしいんだと思う。

「義人さんは、いはるんですか?本の話をできる相手。」

てゆーか、普通はどうなんだろう?
友達や家族と共有するものなんだろうか。
ブログやツイッターに記録したり、発表したり?
……そもそも「普通」がよくわからない。

義人氏は、ちょっと考えてから言った。

「特定のヒトはいいひんかな。でも、例えば図書館によくいるヒトとたまたま同じ本を読んでいたら話すことができるよね?同じ講義を取ってるヒトとか、ゼミが同じヒトとか。俺、特別読書好きじゃないけど、乱読するし、内容も覚えてるほうだから、誰とでも話ができるかも。」
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