夢が醒めなくて
それはいいとして、別の心配って……。

「まあでも、なるべく早くココを出たほうがいいわ。義人さん、人気者やから、希和ちゃん、かなりひがまれてると思う。いかにも裕福そうやし、そういう意味でも妬まれるし。」

「美幸ちゃんは?美幸ちゃんが夏休みが終わる前に東京に行くって聞いてんけど。もう行ってしまうん?」

美幸ちゃんは、苦笑した。
「明日。なるべく早く行きたいねん。ママは昨日のほうが都合よかったらしいけど……希和ちゃんが帰ってくるの待ちたかってん。」

「明日……。」
涙がぶわっとこみ上げた。

「うん。明日。来年デビューするアイドルグループに欠員が出たらしくて、レッスンが間に合いそうなら私をねじ込んでくれるって。せやし、一日も早く行きたいねん。」

え?
驚いて、涙も引っ込んだ。

「美幸ちゃん、それって、すごくない?」
私がそう聞くと、美幸ちゃんは誇らしそうにうなずいた。

「すごいやろ?私、がんばるから。どんな手を使っても、メンバーになってみせるから。」
「うん!応援する!CD買う!コンサートも行く!」

そう言って、美幸ちゃんに抱きついた。

「希和ちゃんは~、周囲に遠慮しすぎ。義人さんはわかってはるっぽいから大丈夫やろけど、新しいお父さんにもお母さんにも、上手に甘えるんやで。」

美幸ちゃんはそう言って、私の背中をとんとんと叩いた……まるで赤ちゃんをあやすように。

「美幸ちゃんみたいには甘えられへん。」
私がそう言うと、美幸ちゃんは私の背中を叩く手に力を込めた。

「当たり前や!年季が違うわ!希和ちゃんは希和ちゃんやねんから、私の真似する必要はないねん。とりあえずは、そやな~、嫌なもんは嫌!ってキッパリ否定することから練習し。」

バンバンと背中を叩かれて、私はちょっと咳き込んだ。
慌てて、美幸ちゃんは私の背中を撫でてくれた。

「ごめん。喘息って聞いたのに。ごめんな。」

「大丈夫。……否定することが甘えることになるん?」
そう聞くと、美幸ちゃんは笑ってうなずいた。

「少なくとも、希和ちゃんの場合は。我慢することが当たり前になってるから。……義人さん、ああゆうヒトやから、どれだけワガママ言うてもかまへんと思うで。」

そう言ってから、美幸ちゃんは声をひそめて言った。

「てゆーか、大丈夫?義人さん、ロリコンじゃないやろけど……そのうち、喰われるんちゃう?」
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