夢が醒めなくて
母親は俺をじっと見た。
「自分の言葉に責任を持ちなさいよ?安易に手ぇ出したら、親子の縁、切るから。」

「へえ。実の息子と縁切りしても、希和子ちゃんを守るんや。」
からかうようにそう言うと、母親は真剣に言った。

「当たり前でしょ。それぐらいの覚悟と責任をとれへんなら、他人様(ひとさま)の娘さんを預かれへんわ。」
そして、母親はふっと頬をゆるめた。
「気が合うわね。私も、希和子ちゃんを誘ったの。里子に来いひんか、って。」

え!

「何や、それ!いつ?」
「大文字の送り火の日。ほっとけなくて。」
「……俺より早いやん。」    
「ふふん。勝った!」
母親は何の勝負のつもりか、鼻高々にそう言って、ふんぞりかえった。

俺は、すっかり脱力した。

「……で?何で?お母さんは、何で希和子ちゃんを選んだん?」
「んー。一目惚れ?昔、憧れていたお姫さまに似てる気がしたのよね。で、気にして見ててんけど、あの子の笑顔をいっぺんも見てへんことに気づいて、このままじゃいかん!と、ほっとけなくなったのよね。」

なんだ、それ。
てか、母親と俺、結局同じやん。

お姫さまが誰のことなのか興味はあったけど、今はそれより話を詰めることを優先した。
「それじゃ、お父さんに里親の承諾もらえそう?」

母親は首を傾げた。
「それがよくわかんないのよね。最初は、里子なら好きにすればいい、って雰囲気だったんだけど……」
「今は?反対してはるん?」
「うーん……たぶん、希和子ちゃんについて調べさせたんでしょうね。吉と出たか凶と出たか。」
チッと、つい舌打ちして、母親に怒られた。


希和子ちゃんには全く非はない。
むしろ、被害者だ。
……と言っても、たいしたことではない。

単に、偏執的なロリコンにつけ回されたのと、酔っ払ったおっさんが寝室に押し入った程度。
どちらも実質的な被害は受けてないし、犬に噛まれるどころか、せいぜい舐められたようなもんだ。

問題は、希和子ちゃん自身が病んでしまうほどのショックと受けて、すっかりトラウマになってしまっていること。
どうにかして、彼女に、何でもないことなんだってわからせてあげたいんだけど……。

つい数日前にも、美幸ちゃんが「レイプされたわけでもない」と言っただけで、呼吸困難になったと聞くと、心の傷はかなり根深そうだ。

焦らず、時間をかけて助け出してあげたい。

たぶん、希和子ちゃんが心からの笑顔を見せてくれるのは、その後だろうし。
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