夢が醒めなくて
てか、母親も聞いてるのかもしれないな。
希和子ちゃんのトラウマ。
……だから俺に愛人云々釘を刺したんじゃないだろうか。

もちろん、そんなやましい気持ちは全くない。
むしろ彼女を守りたい、って庇護心にかられている。

こういう感情を妹以外に抱くとは思わなかった。
他人にうまく説明できないし、少し戸惑いもあるけれど、不思議と希和子ちゃんと一緒にいることが自然なような気がしていた。



「今日も行くの?希和子ちゃんとこ。」
出がけに母親にそう聞かれた。

「うん。希和子ちゃんの友達の美幸ちゃんが、今日、施設を出るんやて。淋しいやろし。」
「……これからは気をつけないと、希和子ちゃんがつらい想いするかもよ?妬まれてイジメられなきゃいいけど。」

母親の言葉に、俺はまた心配になった。
そう言えば、そうだよな。
美幸ちゃんという風よけもなくなってしまうし。
……啓也くんと照美ちゃんにお願いしたほうがいいか。

「わかった。なるべくうまくやるわ。早めに引き取れるように、お母さんからもお父さんにお願いしといて。」
そう言い置いて、家を出た。


施設に到着すると、施設長に手招きされた。
「聞き合わせが何件も来てるんやけど……」
施設長が言いにくそうにそう切り出した。

父親が希和子ちゃんのことを調べてるって言ってたから、興信所か何かだろうか。
「すみません。ご迷惑とご心配をおかけしてしまったようですね。近々、両親がご挨拶に参りますのでよろしくお願いします。」
そう謝ると、施設長は困った顔になった。

「いや……まあ、君のご両親が立派なかただということは、わかってるんですよ。大変お世話になっておりますし。そちらは、何も心配ないというか、むしろこちらがお願いしたいのですが。……今回、中傷されてるのは……君なんやけど。」

俺?
何で?
……あ……そうか。
ボランティアサークルでも、言われてたことを思い出した。

正式なサークルメンバーじゃなかったけれど、一緒に行動してるのだから公私混同は困る、と言われたんだっけ。

まあ、だから一緒に行動することも辞めちゃったんだけど。

そうか。
自分で言うのもなんだが、病院でも老人ホームでも、俺の行くのを楽しみにしてくれてたかたが多かったから、突然辞めたことで何らかの軋轢が生じているのかもしれない。

うーん、自業自得ってやつだな。
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