夢が醒めなくて
「そうでしたか。不徳の致すところですね。申し訳ありません。」
何て言われてるか聞くまでもないだろう。
後ろめたいことも多々ある。
特に女性関係が派手なことは、マイナスだったかもしれない。

殊勝げに頭を下げると、施設長は慌てて取りなしてくれた。
「いや。私も、職員も、君がよくやってくれていることは理解しているし、君を責めるつもりはないんや。むしろ責められるべきは、卑怯な電話をしてきた子らやとは思ってるんやけど……問題になると、困るんです。」

まあ、そうだろうな。
施設長達だって勤め人だ。
下手に騒ぎになって、自分の立場が悪くなることは避けたいだろう。

わざわざ「子」と言った施設長も、電話してきてるのが学生だと確信しているのだろう。

「本当に、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。……見当外れかもしれませんが、私がお世話になったボランティアサークル内の理解を得られるように話し合って参ります。」

施設長はホッとしたようにうなずいた。
「頼むよ。希和子ちゃんにとって、これ以上ないってほどイイ話やと思ってるんで。こんなことで破談にしたくないんです。」
本心からそう言ってくれてることはわかった。

……裏に父親か母親からの継続的な支援の提示があったかもしれないけれど、それも含めての本音だろう。

「ありがとうございます。ご期待を裏切らないよう、尽力します。」
そう言って、もう一度、深く頭を下げた。



「あれ?希和子ちゃん。美幸ちゃんは?」
てっきり、べったりくっついて別れを惜しんでると思ってたのに、希和子ちゃんは独りでぽつねんと座っていた。
あいかわらず、髪は野生児のようにおろしたまんまだけど、前髪が短くなった分、まあ、かわいらしかった。

「こんにちは。あの、美幸ちゃん、今、啓也くんと……」
希和子ちゃんの頬がみるみる赤くなった。

あ~、そうか。
そういうことね。
なるほど、あの2人、何もないまま離ればなれになると思ってたのに、うまくいったのか。
意外だったな。

「そっか。よかったね。」
俺がそう言うと、希和子ちゃんは目を見開いて俺を見て、それから、首を傾げた。

「よかったんでしょうか。友達のままのほうが、淋しくなかったかも。……夕べ、美幸ちゃん、泣いてました。」

俺は苦笑して、希和子ちゃんの横に座った。
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