夢が醒めなくて
「それでもよかったと思うで。泣くほど好きって自覚できただけでも成長するやろし、ましてやちゃんと気持ちを伝えられたんやったら悔いも残りにくいやろ。しかも両想いやろ?いい思い出になるし、心のより所にもなるんちゃうか?会えへんくても、離れてても、そういう存在がいるってだけで、ヒトは強くなれるんちゃうかな。」

少なくとも、好きになったことを、愛したことを後悔したくないし、してほしくない。
結果がどうあれ、その時間は真実だろう?

俺をじっと見ていた希和子ちゃんが視線を落とした。

ん?
どうした?

顔を覗き込もうとしたら、半笑いの口元が見えて……何となく、見てはいけないものを見た気がして、俺は姿勢を正した。

「義人さん、らしいですね。」
希和子ちゃんの声は、ちょっと……いや、けっこう、皮肉っぽかった。

「……ロマンティストって意味?」
無理やり、いいように表現してみた。
けど、内心、ひやりとしたものを感じていた。

何となく、希和子ちゃんと心の距離が縮まった気になってたんだけど、どうやら俺の勘違いだったのかもしれない。
出逢った頃と同じように、希和子ちゃんは俺を軽蔑している?

……あ、なんか、落ち込みそう。
下がるテンションを貼り付けた笑顔で隠して、希和子ちゃんの言葉を待った。

「ロマンティスト、なんでしょうね。」
希和子ちゃんはそう言ってから、ゆっくりと言葉を継いだ。
「でも、ちょっと不思議やったんです。最初の印象と違って、義人さん、むしろ誠実で親切なのに、どうして付き合う女性を絞らないんだろうって。」

……え?
俺、褒められてる?
印象、よくなってるってこと?

希和子ちゃんの言葉は、俺を一気に浮上させた。
単純だけど、男なんてそんなもんだ。
好きな子に褒められたら、無敵になれる単純な生き物だ。

「まあ、単に女好きな漁色家なら、そこまでモテませんよね。うん。」
希和子ちゃんは、独りで納得してうなずいた。
「つまり、義人さんは、八方美人に近いのかもしれませんね。自分を好きになってくれた女の子みんなに、夢と達成感と経験と思い出をプレゼントして、気分よく見送りたいんじゃないですか?」

ヒクッと、片頬が引きつるのを感じた。
それ、ロマンティストって、ほんとに思ってる?希和子ちゃん?
やっぱり……よくは思われてない、か。

参ったな。
希和子ちゃんの指摘を、否定することができない。

「はは……は……」

乾いた笑いだけが、かすかな音になって、しらじらしく響いた。
< 71 / 343 >

この作品をシェア

pagetop