夢が醒めなくて
「では、手続きを進めたいのですが。」
「もう、施設長との話は済んでる。里親や特別養子縁組には、念入りな準備期間が必要らしいが、普通の養子縁組は双方の同意で進めてくれるそうや。まずは、そのお嬢さんに逢わせてくれ。うちに招待するといいわ。」

そう言って、父は立ち上がった。
俺も慌てて立ち上がり、頭を下げた。


帰宅して、すぐにネットで調べた。
宮様の亡くなられた前妻の写真は……あった。
消え入りそうな、お姫さまだな。
希和子ちゃんに、全く似てないこともないけど、瓜二つでもない。
むしろ、希和子ちゃんは母の憧れのお姫さまのほうに似てるかな。

で、別家のお相手というのは?
誰だろう?
あれこれ検索してみたけれど、よくわからなかった。


数日後、件の寺院に行ってみた。
「珍しいわねー。義人、宗教にも歴史にも、そんなに興味なさそうやのに。どういう風の吹き回し?」

俺自身は縁もゆかりもないので、助っ人を友人に頼んだ。
彼女、川村遥香嬢は、大学で日本史を専攻してる上に、彼氏が寺の職員で、彼女自身も墓地でバイトをしている。

「ちょっと、ヒト探し。前の猊下の養子が何人いて、それぞれ現在どうしてはるか、調べたいんやけど。遥香、わかる?」
遥香は不思議そうに言った。
「男?義人のことやから、てっきり女を調べてるんかと思ったわ。んー、みんな、幹部じゃないの?ちょっと待って。」
遥香嬢はそう言って、売店に向かった。

そして、分厚くて大きな本をパラパラとめくって、指差した。
「この写真に映ってる子ども達。女の子が、宮様に嫁がれた、前猊下の実の娘さん。そして、この一列ね、4人が御養子。このかたが、現在の猊下。」

さすが餅は餅屋だ。
遥香はあっさりとそう教えてくれた。

「遥香、すげぇ!」
感嘆してそうほめると、遥香は照れくさそうに言った。

「大袈裟ね。えーと、名前メモるのは……ココじゃまずいか。」
確かに、本の中身をメモしたり撮影するのは、ちょっと憚られた。

「いいよ。買ってくる。待ってて。」
「え……高いわよ、それ。」
絶句してる遥香に親指を突き立てて見せて、レジに向かった。

定価3万円。
確かに高いけど、他にも興味深い写真がいっぱいだ。
充分その価値はあると思うよ。

ベンチに座って、早速本を開いた。
「あー。はいはい。知ってる名前。こちらのかたは、本山で出世してらっしゃるわ。こちらは、東京の別院にいらしたけど、震災でご実家のお寺の復興に携わってらっしゃる。こちらは……んー?」

1人だけ、遥香がわからないヒトがいた。

このヒトか?
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