夢が醒めなくて
「今は、お寺に関わってらっしゃらない?ってこと?」
そう聞くと、遥香は首を傾げた。

「うん。たぶん。でも、何となく見覚えあるような、ないような、うーん……。」
遥香はそう言って、俺から本を受け取り、丹念にページをめくった。

そして、ハッとしたように立ち上がり、再び売店へと走って行った。
慌てて本をケースにしまいながら、追いかけた。

「ちょっと待ってな。ここに、もしかしたら……」
そう言って、遥香は本をめくり続けて、手を止めた。
「いた。これ。」
遥香の指し示した表に、確かにあの写真と同じ名前があった。
でも苗字が違う。

「何のリスト?これ。」
そう聞くと、遥香が本の表紙をみせてくれた。
「海外布教関係。このかた、サンパウロ教区に派遣されてるのね。えーと、今から13年前?」

……13年……希和子ちゃんが12歳だから……ギリギリ計算は合うのか。
「このヒトのこと、もっと調べたいんやけど。わかる?」

そう聞くと、遙香はちょっと考えて、請け合ってくれた。
「たぶん報告書もあるだろうし、広報誌なんかにも紹介されてると思う。コピー取れるかどうか、聞き合わせてみる。時間ちょうだい。」
「わかった。ごめん。面倒なこと頼んで。」
遙香は快く承諾してくれた。

当たり前のように、俺が海外布教の本も購入すると、遥香は首を傾げた。
「ずいぶんと熱心なのね。何で調べてるの?仕事?研究?親戚か何か?……それとも、女関係?」
「んー、家族関係?」

そう返事したら、遥香はますます怪訝そうな顔になった。
「もしかして結婚相手?義人、何の抵抗もなく、さらっと政略結婚とか決めてそう。そんなん、祝福せぇへんで?」

……何となく返事できなくて、俺は曖昧に微笑んでごまかした。



一週間ほどして、遥香から連絡が来た。
お礼も兼ねて、シティホテルで鉄板焼きを一緒に食った。
〆のガーリックライスを食べ終えてから、汚さないように、遥香の揃えてくれた資料を見せてもらう。
サンパウロ教区の報告書と会報誌、それから本山の会報。

「あの写真の4人の養子のうち、このかただけが13年前に離縁して、サンパウロに行ってるの。……左遷よね、確実に。」
「うーん。そうやんなあ。」

問題を起こして追放されたか、自分から出たのかは知らないけど。
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