夢が醒めなくて
「養子達の中で一番優秀だったし、むしろ跡継ぎの最有力候補やったんですって。それが急に離縁に左遷。ご実家も破門というか改易というか、宗派から脱退させられたんですって。その後、また戻ったそうだけど、住職だったお父さまはお寺を出られて、本山から派遣された僧侶がお寺を守ってるんだって。……別家って、何代か前の門主の息子が養子に入る家柄よ?なのに、そこまでする?」
遥香はなぜか憤慨していた。
調べていて、義憤にかられたらしい。
「これ。色白で身体があまり強くないインテリだったそうよ。ギリシャ哲学がお好きだったんですって。亡くなられたけど。」
遥香が指差した集合写真の真ん中近くに、眼鏡の青年が映っていた。
青瓢箪、って形容されそうな線の細い上品な顔立ち。
ああ、間違いない。
希和子ちゃんの血縁だ。
面影がくっきり。
それに、ギリシャ哲学か。
希和子の希は、ギリシャの希でもあったのかな。
「で、こっちが2年後。かなり黒く日焼けしてるのに、健康そうにもたくましくも見えないのよね。……もう体を壊されてたのかなあ。」
なるほど。
頬がこけ、目が落ちくぼみ、苦労が偲ばれた。
この青年は、知ってたのだろうか。
希和子ちゃんの存在を。
……知っていたら、施設に放置なんかしないか。
何も知らされず、排斥されたのだろう。
たまらず、涙がこみ上げてきた。
「義人?」
遥香が俺を見て、黙った。
慌てて、少し鼻をすすって、笑顔を貼り付けた。
しばらくして、遥香が言った。
「……ねえ、このヒトの資料、もうちょっとあるみたいよ?アルバムとか。真秀(まほ)さんのご実家のね、近くの教区なんだって。年齢が違うから、あまり接した記憶はないらしいんだけど。お正月の後、里帰りするらしいから、その時、探してきてもらう?」
真秀さんは、遥香の彼氏だ。
確か、金沢の大きなお寺って言ってたな。
北陸のヒトなのか。
それで色白なのかな。
加賀美人とか言うよな?
「ありがたいけど、お手を煩わせるのは申し訳ないわ。忙しい時間をやりくりして帰郷しはるんやろ?……せやな。遥香が金沢に嫁いだら遊びに行くわ。その時、見せて。」
冗談のつもりはなく、本気でそう言った。
遥香は照れくさそうに笑ってた。
充分、成果はあった。
俺の父親の話をこの写真で裏付けできるだろう。
帰りに、希和子ちゃんに会いに行った。
繊細そうな表情にも、理知的な瞳にも、遥香が複写して持たせてくれたあの男性の面影が宿っていた。
「……義人さん?」
たぶん俺はまた泣きそうな顔をしていたのだろう。
遥香はなぜか憤慨していた。
調べていて、義憤にかられたらしい。
「これ。色白で身体があまり強くないインテリだったそうよ。ギリシャ哲学がお好きだったんですって。亡くなられたけど。」
遥香が指差した集合写真の真ん中近くに、眼鏡の青年が映っていた。
青瓢箪、って形容されそうな線の細い上品な顔立ち。
ああ、間違いない。
希和子ちゃんの血縁だ。
面影がくっきり。
それに、ギリシャ哲学か。
希和子の希は、ギリシャの希でもあったのかな。
「で、こっちが2年後。かなり黒く日焼けしてるのに、健康そうにもたくましくも見えないのよね。……もう体を壊されてたのかなあ。」
なるほど。
頬がこけ、目が落ちくぼみ、苦労が偲ばれた。
この青年は、知ってたのだろうか。
希和子ちゃんの存在を。
……知っていたら、施設に放置なんかしないか。
何も知らされず、排斥されたのだろう。
たまらず、涙がこみ上げてきた。
「義人?」
遥香が俺を見て、黙った。
慌てて、少し鼻をすすって、笑顔を貼り付けた。
しばらくして、遥香が言った。
「……ねえ、このヒトの資料、もうちょっとあるみたいよ?アルバムとか。真秀(まほ)さんのご実家のね、近くの教区なんだって。年齢が違うから、あまり接した記憶はないらしいんだけど。お正月の後、里帰りするらしいから、その時、探してきてもらう?」
真秀さんは、遥香の彼氏だ。
確か、金沢の大きなお寺って言ってたな。
北陸のヒトなのか。
それで色白なのかな。
加賀美人とか言うよな?
「ありがたいけど、お手を煩わせるのは申し訳ないわ。忙しい時間をやりくりして帰郷しはるんやろ?……せやな。遥香が金沢に嫁いだら遊びに行くわ。その時、見せて。」
冗談のつもりはなく、本気でそう言った。
遥香は照れくさそうに笑ってた。
充分、成果はあった。
俺の父親の話をこの写真で裏付けできるだろう。
帰りに、希和子ちゃんに会いに行った。
繊細そうな表情にも、理知的な瞳にも、遥香が複写して持たせてくれたあの男性の面影が宿っていた。
「……義人さん?」
たぶん俺はまた泣きそうな顔をしていたのだろう。