夢が醒めなくて
「そうかー。うーん。どうやろな。大学受験する気ぃやったら今年は正月も帰って来ぃひんかもしれんなあ。こっちから押しかけて、会いに行こうか?」
何の気なしにそう言ったら、希和子ちゃんは慌てて首を横に振った。

「いいです!受験しはるなら、邪魔したくないです!受験終わらはってから、お願いします。」
「てか、希和子ちゃんも受験勉強する?小学校はこのまま通うとして、中学・高校・大学と繋がってるとこ。俺の母校とか。」
「……それって、私立の学校ですよね?学費までご迷惑かけるわけには……」
「迷惑ちゃうって。その方が、俺らも安心なんやって。……中学入試、これからじゃ大変かなあ。あと半年切ってるかぁ。」

うーん。
まあでも、希和子ちゃん、優秀やし、今さら塾じゃ無理でも、家庭教師

あ!
そうか!

「俺が、家庭教師になればいいんか。俺も、中学受験経験者やわ。」
勝手にそう決めてしまったけれど、希和子ちゃんは嫌がってるようにも、迷惑そうにも見えなかった。

「小学校の勉強ができても合格しない、と聞きました。塾に行ってないと。」
ぽつりとそうこぼした希和子ちゃんの手をぶんぶん振った。
「うん。特に算数はそうかも。でも、俺も塾じゃなくカテキョーで合格したから。大丈夫大丈夫。」

ただの思いつきだった。
でも、我ながらイイ手じゃないか?

うちは、父親が成功してから、今の馬鹿でかい家に住んでいるのだが、希和子ちゃんが与えられた自室に籠もってしまわない工夫が必要だとは思っていた。
中学受験までの期間、勉強を教えるというのは、難なく一緒にいられる。

母親も世話の焼きがいがあるだろう。

「わかりました。がんばります。」
決意したらしく、キュッと希和子ちゃんの手に力が入った気がした。

「うん。がんばろ。でもまあ、学力に合う学校を受験すりゃいいから。」

ちらっと、父親が裏から手を回して、俺や由未も通ってた学園に入れそうだな、とは思った。
だが、せっかくがんばって勉強しようとしている希和子ちゃんの決意に水をさす気にはなれなかった。

まあ、勉強は無駄にも邪魔にもならないよ。
例え、生きてくのに直接関係ないようでも、記憶力や忍耐力、判断力、集中力……受験勉強で養える力は無限だ。
生かすも殺すも本人次第だろうけど、希和子ちゃんはちゃんと成長できる子だと思うから。

キュッと、今度はさっきより強い力を感じて、希和子ちゃんを見た。
希和子ちゃんは、今まで見たことのないような強い意志をその目に宿していた。
「義人さんと同じ学校に行きたいです。」

……ただの、受験校の指標でしかないのに……俺は、自分でも狼狽するほど動揺した。


やっぱり父性愛的なモノじゃないよな。
わりと、マジで、ときめいてるのかもしれない。

9つも年下の小学生に。
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