朱色の悪魔
留榎兄さんが握った瓶はさっき朱音に入れられたもの。
思わずそれを奪い取って投げ捨てた。
バリンッと大きな音を立てて割れたガラス瓶から、錠剤があちこちに飛び散る。
「…魁」
「…はぁ、はぁ…朱音、なんで…」
不安そうな顔をして眠っている朱音の顔を見て、勝手に熱いものがこぼれていく。
なんでだよ。やっと、やっと手に入ったと思ったのに、なんで…。
「留榎、施設に連れてけ」
急に割って入ってきた声に身が固まる。
朱音が、施設に…?
カプセルの中に入れられた朱音を思い出す。すぐ近くで寝てるのに、絶対に手が届かなかったあの距離。
朱音が、遠くなる…。
「兄さん…」
廊下を見れば、無表情で朱音を見下ろす兄貴は、視線を背けた。
「どれだけ麻薬を使ってもいい。最期は苦しまずに逝かせてやれ」
「ッ兄貴!!朱音は、まだ生きてんだ!!死ぬみたいに言うんじゃねぇよ!!!」
「死ぬから言ってる」
「兄貴ッ!!」
掴みかかっても、簡単に振りほどかれて床に転がる。
目の前に飛び込んできた朱音の顔に、息が詰まる。
離れていった足音。留榎兄さんも部屋を出ていく。