朱色の悪魔
「あぁ、そうだ。華月組の方が僕に近づけば、これをぶちまけるので、そのつもりで」
研究者がポケットから取り出したのは赤い液体が入った試験管のような形をしたガラスのケースだ。
あれがなにかなんて、あいつが持っていると言う時点で大方判断できる。
朱色の悪魔の原液。私の中にあるのと同じだ。
当然、無防備であったはずの研究者を拘束しようと動こうとしていた組員は止まる。
組長も、長男さんも、弟くんも、三男さんも、誰も動けない。
この状況で動けるのは、研究者と私だけだ。
肩に回った手に自分の手を重ねる。長男さんの視線を受けて、微笑んだ。
長男さんは口をつぐみ、肩を抱く力が増す。首を横に振れば、その手の力が弱くなる。
「朱!早くこっちに来い!!こいつら全員朱色の悪魔で殺すぞっ!!」
研究者の我慢が切れ始めるあんなもの投げつけられたらたまったもんじゃない。
だから、長男さんの手をゆっくりと外した。
「…朱音」
「…今まで、ありがとうございました」
1歩離れると足が濡れる。それを無視して頭を下げた。