朱色の悪魔
「お嬢さん、大丈夫かい?」
…目を覚ます。向かえ側のご老人は今日も悲しげな目をしてる。
多分、毎日連れ出される私を心配してくれてるんだろうな。でも、その分私に与えられる食事とご老人を含めた他の人たちとの食事には明らかに差がある。
それがもうしわけなくなる時がある。特に、向かえ側のご老人には…。
「大丈夫ですよ。おじいさんは?」
「儂は平気だ。慣れているからね」
そういうご老人は、どれだけ長くあいつらに人生を奪われていたんだろう。
こんな慰めのような言葉は意味がないのに、ただ余計空しくなるだけなのに。
それでも言ってしまうのは少しでも言葉を出さなければ、言葉を忘れてしまいそうになるからだ。
「朱~迎えに来たよー」
バカみたいな声はこいつだけだ。
やって来た研究者は慣れたように鍵を開けて、私をつれていく。よくも違う人間を毎日拾って来れるなと言いたくもなる。
いつもと変わらない部屋。変わるのは人だけだ。