朱色の悪魔
「バカなの?わざわざ飛び込んできてくれるなんてさ」
指先に赤がたまり、今にも研究者の肌に落ちそうになっている。
それなのに、こいつは気持ち悪い笑みを浮かべたままだ。
「いやぁ、びっくりしたよ朱。まさかこんなにも強くなってるなんてさぁ…12年前の無力な朱からは想像もできないよ」
「…」
「あれぇ、せっかくおしゃべりできるようになったんじゃない。話、付き合ってくれてもいいんじゃないのかなぁ?」
飄々と、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、こいつは話す。ベラベラとこの状況すら忘れてしまったかのように。
赤が落ちる。1粒。だが、それが命を奪う。
「今なら許してあげるよ。朱、退きなよ。キミは、支配者じゃない。キミは兵器であって、所詮コマだ。コマが支配者に逆らっていいと思ってる…」
「黙れ」
手が震える。体が重い。時間が、もうないんだ。
こんな奴の戯言に付き合ってる場合じゃない。
息を吸い込む。2粒、赤が落ちる。
「お前こそ、勘違いするな。お前は支配者なんかじゃない。自惚れも大概にしろ研究者」
「…」
「心配しなくても、すぐに後を追うよ。あんただけは、“こっちに”残しておけない」
初めて、研究者の表情がひきつる。
だから、笑ってやった。滑稽だと伝えるように。愚かだと言ってやるように。