朱色の悪魔
どうして?どうして、なんで…。
微研究者に赤を擦り付けるように微かに動く左手を動かす。
確かに赤は、研究者の手についている。その首にも、はっきりとついている。なのに、研究者は苦しむ様子もなく余裕な顔で私を見下ろす。
「っくく…。朱、どれだけやっても無駄だよ。“ただの血”をどれだけ浴びたって、人は死なないんだからねぇ」
ただの、血……??
どういうこと。ただ、血を浴びたくらいじゃ人は死なない。そんなこと分かってる。
でも、私は“ただの血”なんかじゃない。朱色の悪魔を潜めた、劇薬のような血。人を殺せる血だ。
なのに、どうして研究者は、そんな血な触れているのに生きていられる?
「まだ、気付かないの?朱…朱はもう、朱じゃないんだよ?」
「…」
研究者が笑みを浮かべ私の手に触れる。赤が、研究者の指先につく。
それを、研究者は口に含んで笑って見せた。
…なにも起こらない。