朱色の悪魔
「魁、そのままでいてあげな。血に触れても大丈夫だから」
「…分かった」
まさか、本当に…。
長年願い続けてきたこと。なのに、素直にそれを喜ぶことができない。
朱音の血が手に触れる。だけど、なにも起こらない。それを確認して、朱音を抱き上げる。
こんなに軽くなりやがって…。前よりずっと痩せてる。
なぁ、何でだよ。俺はただ、お前と一緒にいたいだけなのに…。
「懺悔の言葉くらい、吐かせてやるよ」
神哉兄貴の声に我に返る。
見れば、神哉兄貴は拳銃をまっすぐ研究者に向けていた。
珍しい。いつもなら拘束するのに。…いや、違う。神哉兄貴は、朱音のためにこうすることを選んだんだろう。
あいつを、置いて逝けないと言った朱音が、安心して眠れるように。安心して残りの時間を過ごせるように…。
そうじゃなきゃ、こんな極悪人があっさり終わりを迎えられるようにするわけがないのだから。
「ッ僕を殺すのか!?なぜだ!!お前たちにとって、僕は有益な存在だろう!!あんな、あんな死に損ないより、よっぽど僕の方があんたにとって有益だ!!僕を殺せば、後悔するぞ!!」
それなのに、研究者はその慈悲を知らずに最期の足掻きを見せる。
そんな研究者を親父も、神哉兄貴も、なにも感じ取れないで見つめていた。
カチャリ、とトリガーにかけられた指に力が入る。その音に研究者は情けない声をあげて後ずさる。