ウサギとカメの物語 2
数日後。
私とカメ男は別々に人事部の菅原主任に呼び出された。
彼は30代前半の人当たりのいい明るい人で、採用担当ではなく異動とか休職とか、そっちの方を担当している。
2、3回しか話したことがなかったけれど、まさかこんなことで向き合って話すことになるとは思っていなかった。
本社の2階に設けられている面談室には、小さなテーブルと2人がけ用のソファーがテーブルを挟んで2つ。
菅原主任はA4サイズのボードを手に持っていて、数枚の資料を持っているようだった。
たぶん、私が入社した時の履歴書とか、住所変更した時に提出した引越し届とか、たいてい総務課で管理している情報だろう。
物々しい雰囲気になるのかと思いきや、菅原主任は笑い飛ばす勢いで私に話しかけてきた。
「一応さ、形式としてこういうことしなくちゃならないんだけど、適当に話してくれればそれでいいから」
「は、はい……」
事情聴取でもされるのかと思ってたよ、私は。
身構えていたからちょっとホッとした。
「お互いひとり暮らしなんだね。同期って聞いたけど、交際期間は長いの?」
「1年も経ってないです」
「え?そうなの?あらら~、一番楽しい時期なのにご愁傷様だねぇ。久住さんに見つかっちゃったんだってね」
「彼女も同期でして……」
「あ、そうなんだ~」
主任は雑談レベルのことしか聞いてこなかったし、聞いてくるというよりは本当にただ話すだけだった。
本社での仕事はどうだったかとか、上司との人間関係はどうだったかとか、他店にヘルプに行ったときはどうだったかとか。
カメ男とのことを聞かれたのは最初だけで、あとはほとんど仕事の話だった。