ウサギとカメの物語 2
おまけ その2 須和柊平の頭の中。
基本的に、感情を表に出すのは苦手。
笑うのも怒るのも苦手。
過剰に反応するのって疲れるから。
29年間、普通に、むしろどちらかと言えば地味に生きてきた俺にとって、大野梢という女は苦手な存在だった。
本社の事務課でそれまで一緒に働きながら、ほとんど接点の無かった彼女。
話しても仕事のことで一言交わすくらい。
いつ見ても笑ってるあの人にとって、俺は「その他大勢」の1人だっていうのは明白だった。
それがあの日、変わった。
彼女が会社の飲み会で酔いつぶれて、何故か俺がタクシーで送らなきゃならない展開になって、成り行きで仕方なく家に泊めたあの日から。
気の強い女。
おしゃべりな女。
面倒くさそうな女。
頑固そうな女。
ミーハーな女。
そう思っていたのに、たった3ヶ月ほどの間に変化が起きた。
芯のある女。
表情が豊かな女。
理想と現実の区別がつく女。
強く見えるけど、実はそこまで強くない女。
素直になれない女。
可愛い人だな、といつからか思うようになった。
いつどこのシーンを切り取ってもアハハと大笑いしてる彼女が、俺に告白らしきものをしてきた時。
ビックリしてどうしようかと思った。
まさか俺のことを好きだなんて思ってもみなかったから。
そして約1週間他店へヘルプに行き、ぽっかり空いた彼女のデスクに無意識に視線を送ってしまう自分に気がついて、それで分かった。
これはきっと、彼女のことが好きなんだと。