ウサギとカメの物語 2
カメ男おおおおおおおおおお!!
なんてこと言うのよおおおおおおおおおお!!
心の叫びはもちろん私にしか聞こえていないので、真野さんは両手を叩いて喜んでいた。
「私ね、ずーっと2人はお似合いだと思ってたのよ〜!思ってた通り、いい感じねぇ〜」
「え、あ……いや……」
「コズちゃん、良かったわねぇ〜。須和くんみたいな素敵な子をゲットできて〜」
「す、素敵……。う、う〜ん……」
素直に喜べない曖昧な返事を繰り返しながら、どうやって彼女に「私たちのことを上には報告しないで」って頼もうかと考えていた。
もしかしたらもう報告しちゃってるかもしれないんだけど。
「真野さん」
不意にカメ男が真野さんに話しかけた。
「もし異動になる時は、俺の方でお願いします」
「………………え!?」
私と真野さんの声が見事に重なる。
私も相当驚いたけど、目の前の真野さんもかなり驚いたように目を丸くしていた。
多くの人が通り過ぎていく構内で、カメ男は力強くもなく弱々しくもない普通の話し方で淡々と真野さんに続ける。
「俺は車もあるから、どこの支店でも大丈夫ですから」
「んん?ちょ、ちょっと待って〜!須和くん、何言ってるの?勘違いしてない?」
え?とカメ男が首をかしげる。
「嫌だわ〜、私がそんな野暮な報告を部長にする訳ないでしょ〜!なんてったって2人は私のお気に入りなんだから〜。どうぞ気にせず仲良くやって下さいな。なんちゃって〜」
ほほほほほ、と明らかにいつもよりも高らかに笑う真野さんは唖然とするカメ男を差し置いて、私の肩をツンツン指でつつくと
「コズちゃん、愛されてるぅ」
とからかうように言い、「ご馳走様でした〜」って満たされたような笑みを残して風のように去っていった。