ウサギとカメの物語 2
ポカンと立ち尽くす私とカメ男。
嵐のように去っていった真野さんの言葉を思い出して、ハッとしてヤツの顔を見る。
とっても不機嫌オーラ全開の、何か言いたげな瞳をしていた。
おそるおそる聞いてみる。
「…………………………怒ってる?」
「呆れてる」
「私の勘違いに?」
「大野の早とちりに」
「………………ご、ごめん……」
喉の奥底から絞り出すように謝ると、カメ男は大きくて深いため息をついてゆっくりと歩き出した。
慌ててヤツを追いかける。
「離ればなれになるかもって思ったら寂しかったんだもん」
半歩先を行くカメ男の背中に思い切ってそのように伝えると、ヤツは足を止めてこちらを見てきた。
その目はちょっと面倒くさそうな色が見えた。
なにもそんな顔しなくたっていいのに~!
女心をほとほと分かってないな、カメ男。
「隠してたっていつかはバレるんだから。大野の場合分かりやすいんだし、むしろ堂々と開き直った方がいいと思うんだけど」
ヤツはそう言って、さっきついたばかりのため息を今またすぐについた。
つ、つ、冷た~い!!
冷酷人間!!
人の気も知らないでっ!!
「はいはい、分かりましたよ!そんなもんなんだね、あんたの愛情なんてさ!須和はくだらないって思うかもしれないけど、人によってそういう感覚は違うんだから!言わなくても分かってます、どうせ重い女ですよ、すみませんねぇ」
勢いに任せて拗ねた言葉を連ねて、息継ぎもせずに言い切った。
駅の構内で。
通路の真ん中で。
カメ男はメガネの奥で目を細めて私をしばらく眺めたあと、ちょいちょいと手招きした。
そして、さっきの面倒くさそうな色は消した目で
「重い女でけっこう。早く帰って飲もう」
と手を差し伸べてきた。