ウサギとカメの物語 2
2 ウサギは梢、カメは柊平。
「ねぇ、コズ。聞いた?異動の話」
4月に入ってすぐ、新入社員が来週からやってくるというこの時期にたいてい異動も合わせておこなわれる。
どういう人が来るとか、こんな人が来るとか、そういう噂もこの時期はあとを絶たない。
去年、極上のイケメンが課長として卸町支店から本社に異動してくるらしいという噂もこの時期に聞いた記憶がある。
それこそがついこの間結婚が決まったと発表になった熊谷課長なのだけれど。
目を輝かせて奈々がワクワクしたように蕎麦をすする。
奈々はそのへんの異動などの情報をどこからともなくゲットしてきて、そしていつも私に「聞いた聞いた?」って教えてくれるのだ。
「異動?新入社員じゃなくて?」
「うん、異動の方」
コクンとうなずいた奈々は、温かい鳥南蛮そばを食べる私に上目遣いでニヤリと含んだような笑みを浮かべて見せた。
「事務課に来るらしいよ。長町支店から」
「へぇ~!あ、小巻ちゃんが辞めるから?」
「そうそう」
小巻ちゃんとは、今年の4月で入社3年目を迎える女の子なんだけど。
2月に学生時代から付き合っていた人と結婚が決まって、まさかの24歳にして寿退社というわけなのだ。
退社は4月いっぱいなので、まだ少し一緒には働く予定だ。
「超イケメンらしいよ、小巻ちゃんの代わりに来る人」
「やった~!目の保養~!」
奈々の言葉で私が両手を挙げて喜んでいると、ついでとばかりに
「めちゃくちゃ性格に難ありらしいけどね」
と付け加えた。