ウサギとカメの物語 2
「い、いや~……。よ、呼んでみたかっただけ!それだけ!」
苦し紛れの言い訳が考えるよりも先に口からついて出た。
自分でも分かるほど声が上ずっていて、明らかに動揺しているのが伝わってしまった気がする。
カメ男はしばらく私の顔を眺めていたものの、つけっぱなしにしていたテレビをリモコンで消すと
「もう1回、呼んでみて」
と言った。
な、何を言い出すんだこいつ。
わざわざ小っ恥ずかしいことを言わせる気なのか!?
無理無理無理無理無理無理!
カメ男の思い通りにはならないんだから!
口を真一文字に閉じてヤツを見上げていたら、カメ男が再び同じ言葉を言った。
「もう1回、呼んでみて」
「そういうのは呼べって言われて呼べるもんでもなくて……」
「いいから、呼んでみて」
なんなんだよ、カメ男おおおおおおおお!!
一体なんの恨みがあるのよおおおおおお!!
どっちがドSだよおおおおお!!
もう精神的に追い詰められて半分ヤケクソになって、言い捨てるぐらいの勢いで
「柊平!」
って言ってやった。
ついでに可愛くない一言も添えた。
「ほら、これで満足した!?」
カメ男相手に照れるのは癪だった。
それなのにたぶん私は今、顔もちょっと赤くなっちゃってる。
ヤツはこんな状況だっていうのに笑った。
いつものように、口元を緩めただけの笑み。
そして、その目は何かを企んでいた。