ウサギとカメの物語 2
「彼氏ってなんの仕事してる人なの?」
「えーっと……会社員だよ」
「どこで出会ったの?」
「…………………………合コン」
「スポーツマンタイプなんだよね、確か。なんのスポーツやってんの?」
「ボルダ…………じゃなくて、フットサル」
一体どこの誰なんだというような架空の人物を彼氏に仕立て上げ、それっぽい答えを告げておく。
誰もカメ男なんて気づくまい。
私の素晴らしい演技力と即興の彼氏ネタに乾杯!
……と、内心ニヤニヤしていたら。
優くんが「そういえば」と思い出したように私に笑いかけてきた。
「柊平も似たようなこと言ってたな~。彼女と付き合って4ヶ月目だって」
「ゴフッ!!」
ガレットが瞬時に喉に詰まる。
いかん!動揺してしまった!
慌てふためく私をよそに、
「いいなぁ~、恋人がいると毎日楽しいよね~。俺も頑張んなきゃな~」
と不意につぶやいた優くんの言葉を聞いて、何気なく聞き返す。
「好きな人もいないの?気になってる子とかさぁ」
すると、優くんの顔がニコニコしたものから急に真剣な表情に変わった。
それは見たことのない彼の一面だった。
「…………いるよ。最近出来たんだ」
「いるんだ!なんだ、じゃあアプローチしなくちゃダメじゃない!優くんならすぐ好きになってもらえるよ!」
「…………ううん。それは無理なんだ」
やや落ち込んだようにそう言って、さっきの勢いはどこへやらガレットをチマチマ食べる彼の姿を見て、私はちょっと意外に感じていた。
叶わない恋をしてるってこと?
もしかして、既婚者が相手とか?
そう思ったら、たいそう顔の整った優くんが急に身近に感じられるようになってしまった。
イケメンなのに苦労してるんだなぁ、って。